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国立大学病院の経営改革
大島伸一前名古屋大学病院長との対談

国立大学が行政機関などの法人化の流れの中で、2004年4月から国立大学「法人」と組織を改め、約1年が経過しました。この国立大学法人化の特徴 は国家財政の改革に連動して、対前年1%の国費削減(大学病院は収入がコストを下回る場合、収入の2%)をする一方、自助努力の成果は法人自身が経営資源 の再配分を独自に実施することができるという、完全ではないができるだけ自立した財政に立脚した学術経営を目指していくことが大きな目的になっています。 大学経営全体に対して大学病院(医学部附属病院)は大きな経済的影響を与えます。名古屋大学の場合、大学全体の自己収入(病院収入、授業料などで国費を除 く)350億円(2003年度)に占める病院収入は約54%にのぼり、全学の歳出825億円(2003年度)に対して病院は約22%を占めます。また、大 学病院は患者・国民に対して医療行為を実際に行う現場であるため、社会的影響も計り知れぬほど大きなものです。病院経営が、大学全体の経営の経済的・社会 的成否を左右するという構造にあると考えられます。

名古屋大学は国立大学法人化まであと1年半という2002年秋に、大学全体の経営改革を進める上で医学部附属病院の経営改革が不可避である と判断し、改革に着手しました。CDIはそれを全面支援するべく依頼を受け、経営改革活動を1年余にわたり行いました。CDIは代表取締役の吉越を総括責 任者とし、私がプロジェクト・リーダーを勤め、高塚ほか5名のチームを編成し、大学当局には総長・事務局長のコミットメント、大島病院長には院内に改革委 員会・小委員会の編成をお願いしました。プロジェクトを開始するに当たり双方の問題認識や検討範囲などを共有するために、プロジェクト提案書を作成し合意 を形成いたしました。

その概要は以下のとおりです。

名大病院の戦略監査
(1)名大医学部・附属病院幹部・職員の問題認識の把握
(2)市場の視点と財務の視点による名大医学部・附属病院の現状評価
(3)競争戦略の立案:注力すべき分野の特定、事業運営体制の基本設計

名大病院の中期計画(6か年)の策定支援
(1)組織運営の基盤整備
(2)診療体制・臨床研究体制・臨床教育体制の整備
(3)知財・技術のビジネス化と地域貢献
(4)病院単独では解決不可能な課題の抽出と2009年度までの工程表作成

病院改革運動の実施前、実施中、実施後の医業収入の推移をみてみますと、02年度の179億円から03年度は190億円、04年度は194 億円(の見込みと)確実な増収傾向になりました。また、04年度は利益で予算(名古屋大学から文部科学省に提出した6か年の中期計画<04-09年度>の 病院分)を6億円上回る見込みです。全国の国立大学病院の中でもトップクラスの経営改善となることと思われます。大学病院における1億円の改善とは、看護 師約20人を独力で増員できることを意味します。 換言すれば、この増員によって質的・量的つまり労働環境面・安全面・収入面などの点で病院を自立的に改 善していく、経営改善の原資を自ら創出したことを意味します。
CDIの活動は「民の改革」のお手伝いが主でありますが、今回はCDIの活動分野の一つとして大きく成長し、社会的に注目されている「官の改革」について 述べたいと思います。特に今回は、当時の名古屋大学病院長であり、現在は国立長寿医療センター初代総長に就任されている大島伸一先生にご協力をいただき、 吉越と大島先生との対談というかたちで国立大学の病院改革を実際にどのように進めていったかを振りかえってみたいと思います。

おおしま・しんいち 1945年、旧満州生まれ。名古屋市で育ち、旭丘高校から名古屋大学医学部へ。70年4月、社会保険中京病院(名古屋市南区) 泌尿器科の医師。腎臓の移植に先駆的に取り組み、日本移植学会理事として脳死による臓器移植を推進。97年、同病院副院長から名古屋大学医学部教授。大学 で研究生活も助教授も務めたことがなく、異例の就任だった。2002年には同付属病院長に。04年3月、国内初の長寿医療研究の拠点として愛知県大府市に 開設された国立長寿医療センターの初代総長に就任。病院と研究所を併せ持ち、国立がんセンターなどとともに全国で6つしかない国直轄の医療・研究機関。

国立大学病院の問題

吉越:大島先生は民間病院でのご活躍が長く、その後国立大学病院に移られたわけですが、国立大学病院の問題は何であると考えていらっしゃいますか。

大島:一番の問題は、大学病院を含めて国立大学の価値観が世の中の価値観と大きくずれてしまったこと、つまり大学は、科学者の集まりであ り、学者として研究成果を出すことが一番重要であるという価値観になってしまったため、病院の医師が医師であるよりも学者志向になってしまったことです。 医療は実学であって、まず優秀な臨床医であるべきで、その上で、大学ではよき研究者であり、教育者であることが求められるべきです。医学はよりよい医療を するための手段であるにもかかわらず、目的と手段が転倒してしまっている。

吉越:大学病院には、教育・研究・診療の3つの事業があります。先生たちは1人3役ですが、確かに、研究に偏った運営がなされてきたと思い ます。大学病院は大学の中で唯一の現業部門であり、他とはまったく違った見方が必要です。大前提として、実際に患者さんという生身の人間の生命にかかわる 仕事をされている。万が一、医療事故が起き、損害賠償責任を負わなければならなくなった際には、大学の経営に大きくかかわるような経済的影響を及ぼさない とも限りません。

大島:医学部で臨床の教授を選考する時に、どれほど臨床の実績があるかということよりも、いかにインパクトファクターの高い論文を書いてき たかが重視されてしまうという傾向が続き、非常に腕の良い医師がいても、論文の評価で負けてしまって採用できない。結果として、患者さんをきちんと診ると いう基本ができなくなるなどという事態まで生まれてきました。相次ぐ医療事故で、大学病院は本当に最高の医療技術で治療してくれるところなのだろうかと、 皆が考えるようになってしまいました。

吉越:その意味で、私が大変びっくりし、心配したのは、最前線で治療に携わっているお医者さん・先生方の労働環境の悪さです。30歳代、時 には40歳近い方でも医員といわれる方は、月給17万円しかもらえない。正職員の身分も得られない。結婚をし、子供もいます。住宅ローンも組めない。国立 大学病院といえば、医師の総本山とわれわれは思っています。そこで働く先生方がこのような環境で働いているというのは、全然知らなかったし、驚きでした。

大島:そうなんです。二番目の問題はこれです。こんな収入では当然生計が成り立たないので、毎週1~3回の夜勤も含めたアルバイトを一般病 院でせざるを得ません。論文も書かなければならない。疲れきっています。大学病院の日常の最前線はアルバイト勤務が常態となっている医師たちで支えられて います。外で稼ぐのが当たり前になると、無責任体制に陥ります。この状態で医療の安全の確保は難しい。医療事故が起こらないのが不思議だと思います。これ は医局講座制と呼ばれる制度が影響しています。

吉越:三番目の問題として指摘しておきたいのは、今話に出た医局講座制です。私は医局講座制の長所はあると思いますし、存続していくのだと も思います。しかし、大学の自治と学問の自由という考え方が学部の自治と自由、学科の自治と自由、講座の自治と自由となり、最後は研究者一人ひとりの自治 と自由になってしまった。全体を考える体制からはほど遠くなっています。

大島:自治、自由は責務を果たしての自治と自由であるはずです。大学病院の責任を議論せずに自治と自由ばかりを主張すれば、わがまま勝手や りたい放題の世界になります。それに、実際的にカネはともかく、ヒトの権限を医局講座が握っていたのでは、病院は組織とは言えません。そういう意味では国 立大学の病院長にはカネもヒトも動かす権限はないですね。

吉越:最高意思決定機関が教授会で、各医局講座の代表である教授による多数決によって意思決定が行われるということに改革の難しさを感じま す。私は教授会で「先生方は、医局講座という名の中小企業の社長さんですね。私も社長をしてきたからわかります。自分の会社が大切です。人事、品質管理、 資金繰りなど、自分の会社の経営をきちんとすることは大変です。しかし、全体を考えて、自分の会社のことはもう少し抑えて、議論してください」と訴えまし た。

大島:名大病院では、私の前の病院長が病院常任会という組織をつくられ、毎週月曜日に数名の病院幹部の方が機動的に意思決定できる仕組みがあったので、他の病院に比較して改革が進めやすかったですが、それでも各講座の人事まで踏み込むなんてことは不可能でしたね。

吉越:教育・研究事業を打ち立てていくためにも、まずは診療事業を磐石なものとしなければならないということ。病院組織の最前線と最上層部に問題を抱えているということは、早い時期によく認識できました。

大島:30年以上前の、いわゆる、大学紛争の時代から問題の本質は変わっていなかったのです。本格的な改革がなされないまま、更に大学病院の常識と社会の常識とが離れてしまったのですね。

吉越:私どもは、私立大学理工学部や国立大学医学部と付属病院をテーマにした経験はあったのですが、1,000床以上の国立大学病院改革 に正面から取り組むのは、はじめてでした。なかなか難しいなあと思ったこともありましたが、考えてみれば、本質的にはシンプルなものと思いはじめました。

大島:確かにそのとおりですが、病院長という立場で限られた時間内に、目標どおりに絶対にやり遂げようと考えると相当なプレッシャーばかりでした。

吉越:先生と51対49の話をしたのがなつかしいですね。どう51の多数派をつくるか。51の中の多数派、つまり、26までは馬鹿力を出し、朝7時から夜11時の
セブンイレブンの臨戦態勢で頑張りましょう。先生たちから何か事実関係の調べものや分析を頼まれれば、翌日には必ず回答する。ここまでやれば、シーソーの 原理で、51ができ、あとは自ずと全員が病院長の考えに同化すると。はじめは全然進まないけど、改革は必ず大変加速していきますと。

経営改革の進め方

大島:最終的には全職員の意識改革をどうするかに尽きるわけですが、改革ではその過程も含め具体的に目標を設定しなければなりません。02 年11月に病院長に就任した時に、3億9000万円あった累積赤字を法人化までの1年数か月で一掃すると宣言しました。法人化したときに赤字を抱えていた のでは先へ進めない。赤字に対応するには選択肢は3つ。一つは、こんなもの知らないと踏み倒す。二つ目は稼いで返す。最後は自分たちの研究費を拠出してで も返す。私はどれでも良いと職員に言いましたが、踏み倒せという声はまったく出なかった、そして自分たちで稼いで返すしかないとなりました。

吉越:病院は教官の医師ばかりでなく、教官でない医師や、何よりも看護師、検査技師といった多くのコメディカルによって運営されていますからね。

大島:経営の改善について、その具体化に向けては、30~40歳代を中心に、医師・看護師・検査技師など院内から横断的に集めた約200人 からなる23のワーキングチームを編成しました。チームに収入増加対策と経費削減について一つずつ具体的なテーマを与え、1か月という期限を切って討議さ せ、結論を求めた。ワーキングチームの編成時には、全員を集めて辞令を渡した。200人の職員が考えたので「今度の院長は本気だぜ」と一気に広がる。出て きた対策は、経費をかけることなく簡単にできて効果が上がりそうなものからランク付けして、職員自ら目標をきめて文書にした。自分たちで決めたことが重要 ですね。

吉越:総長とは、かなりの頻度でご報告や相談をしました。改革に着手するに当たって、総長からこれだけは実現したいと3つのことを言われま した。①安定した収支の実現②医療事故のもとになる構造上の問題の解消③法令等の遵守の徹底。この三つは突き詰めると、病院の幹部の方がたが、日常的にも のすごく高いエネルギーレベルで、組織全体に対して病院経営はかくあるべしと発信し続けられるかどうかという一つの問題に帰結するように思いました。

大島:初めは数人の幹部しか同調者はいませんでしたが、最終的には2:6:2の原則でいえば、20%の方は本当の意味で改革推進者となっていただけたと思います。20%は何を言ってもだめですが、残りの60%の多くの方たちが理解を示してくれたと考えています。

吉越:改革推進者となっていただくために、私どもが最初にこだわったのは、事実関係を徹底的に洗い出すことでした。病院の方は大半が科学者です。きちんとした事実をご覧になれば、自ら考えていただき、行動に移れる。

大島:インテリ集団が核になっての改革で、意思決定は民主主義の手法ですから、会社とは随分違うと思います。インテリは、なかなか自分の考えを変えませんが、しかし根拠のある事実に対しては謙虚で理解が早いですね。

吉越:特に、大学病院に欠けていると考えた、二つの視点から迫りました。一つは患者さん・住民の目から見て名古屋大学病院はどう見えている のかという顧客の視点です。住民の方はまた利用したいと思っているのか、いないのか。それは何故か。近隣の病院と比べて評価は良いのか、悪いのか。入院の 患者さんはどう評価しているか。外来の患者さんはどうか。各医局の評価は相対的に良いのか、悪いのか。その原因は医師にあるのか、看護師にあるのか。など を定量的に明らかにしました。二つ目の視点はどの医局のどの事業でどのくらい黒字や赤字が出ているのか、という経済性の視点です。全ての医局を縦に並べ、 横軸に教育・研究・診療の3事業を並べ、それぞれに収入・費用・収益を計算する。病院の最大費目は人件費ですので、先生方の行動時間分析も細かく行いまし た。医療界では今、EBM(Evidence Based Medicine:科学的根拠に基づく医療)という考えがトレンドのようですが、私どもとしてはEvidence Based Managementをお願いしたわけです。

大島:改革を進めるに当たって、CDIという第三者がいてくれたことは非常に助かりました。事実に基づいて審判役をしてくれる人がいると、 感情論にならず、議論を進めていくことができます。正直言いますと、私も社会保険病院で経営をしていた経験があるから、CDIがいなくても山でいえば、 3・4合目までは自分たちだけでいけると思っていました。しかし、今回の改革で目指しているのは、誰も登ったことがない山を

目指すようなもので、麓から見えるところまではいいのですが、そこから上は、未知の
世界で、どんな天候のときには、どんな装備が必要かなど、安全に確実に山に登ることのできる根拠を示してくれる相談相手が必要でした。

吉越:全ての診療科を見直して、病院の特長をはっきりさせ、かつ経済性を改善すべく各科定員のメリハリをつける。あれは大変そうでしたね。

大島:古くからある診療科(講座)には多くの教官定員が配置されているけれど、新しくできた診療科には2、3人しかいないところがある。し かし、実際の業務量、業務内容、診療実績を見てみると、配置された教官数とまったく整合しない、既得権のあるところは譲ろうとしないし、少ない人数で頑 張っているところは頭に来る。多いところを減らさずに少ないところを何とか増やせないかというのが今までのやり方でしたが、いつまでもそんなことが続くわ けがない。理屈は誰もが分かっているわけですが、誰もそこに手をつけられないという状態でした。CDIが業務量や内容に合わせた人員の比例配分の根拠を示 してくれたために、議論が嫌だ嫌だではなくて、限られた人員をどう配分するのがフェアかというところからスタートできたのは大きかった。CDIの根拠づく りが単なる数字合わせではなく、各科のトップと面談をして実情を生で把握し、全体の枠組みを示しながら調査をしてくれたことも納得をしてもらう大きな力に なったと思っています。CDIの調査では±5以上の定員数の異動が出ましたが、さすがに一挙にそれをやることは不可能ですので、数年計画で実績を見ながら 順次進めることにしました。これを進めることは医局講座制の根幹を揺さぶることになりますから、これからも大変なことですが、やらなければ改革は進まない でしょう。

吉越:先生がわれわれと初めて会った時、何を評価していただいたのですか。

大島:大学病院の目的は研究と教育にありますが、これらを行うにはまず、財政面を含めて、診療事業を立て直さなければならない。これは基礎 工事として大前提です。しかし、名大病院は公的機関ですから、金儲けが目的ではありませんし、赤字を出さなければよいというものでもない。国費を使う以 上、公的機関としての存在理由は何かが重要で、これは民間組織にはないところですが、このことをCDIは十分に理解しているかどうかが、一つ。要するに経 済の論理だけで考えてもらっては困るということ。もう一つは、実行するのは我々で、CDIではない。しかし、どこまで当事者のように考えて付き合ってくれ るかどうかを見せてもらいました。改革では、変えるのも変わるのも同じ人間で、結局難しいのは人をどう変えるかという問題であるということをよく理解して いる集団であるかどうか、そのような風土を大切にしている会社かどうか、に尽き
ますね。逆に我々がどこまで真剣に実行する気があるのかを、CDIに値踏みされて
いるような雰囲気を感じましたね。

吉越:改革を実現させるためには大学病院の中だけでなく、大学本部や他学部の理解・協力が必要で、大島先生と一緒に何度か資料を持ってご説明に伺いました。こうした外部との関係について、留意された点はございますか。

国立大学病院改革と大学本部・本省との関係

大島:私の場合、総長が全面的にバックアップしていただけたのがありがたかったし、これがなければ間違いなく限界は見えていたでしょう。 他の大学病院長と話をしていると、総長・学長と腹を割って話ができていない方が本当に多いと感じています。なかには総長と話をしたことがないという方もい ますが、病院改革は大学当局の理解なしには不可能だと思います。名大総長は工学部出身の方でしたが、病院のことに大変心を砕いていただいた。全学の評議会 でも、外に向けても、病院改革なしに大学改革はあり得ないとはっきり言われた。また、改革の最中で職員が疲れきっているときには、病院に来て職員の声を聞 いていただいた。これは他学部の出身の総長では名大病院の歴史上初めてのことで、「総長も本気だ」と職員の士気が高まりました。

吉越:総長は、名大病院は「深刻な状況」であると認識されていた。やりようによっては、病院収入の1~2割は上にも下にもぶれる。金額で いえば、±30~40億円の振れ幅があり、他の学部を一つ二つ吹き飛ばすほどの影響がある。さらに、革命ではなく、改革でソフトランディングさせていくと いうマネジメントの難しさがある。

大島:私もよく聞かされました。それと、改革にはインセンティブが必要です。理念・理想だけでは限界があり、継続しない。たとえば、手術 件数を上げるためには少ない麻酔医を各医局から出したり、患者さんを受け入れるために病棟の看護師に多く働いたりしてもらわなければならない。実際に過労 で倒れる看護師もでた。そうして苦労した職員にはきちんと報いてあげたい。収益が改善したら、すべてではなくともその大半を看護師の増員などの環境整備に 使うべきです。いきなり増員してくれというのではない。現在の人数で改善した分を投入して次年度に増員するという考えです。改善分をすべて大学本部に吸い 上げられてしまったら、誰も努力を継続しなくなります。

吉越:文部科学省と厚生労働省の縦割り行政の弊害という問題も垣間見えました。こうした問題を、「行政の交差点」の問題と言っています。 民間では組織と組織との間の問題こそ経営手腕が問われる問題です。問題を放置しておきますと、売り上げや利益がその会社から逃げていってしまいます。

大島:大学病院は文部省管轄でありながら、厚生労働省の施策の影響も受けます。たとえば、文部科学省としては、定員削減を進めなければな らないので、増員はしない。しかし、厚生労働省では2:1看護といって二つのベッドに一人の看護師を配置したら診療報酬点数(収入)を多く請求できる政策 をとっています。当然大学病院としては最高の看護体制をとるべきなので厚く看護師を配置したい。配置できなければベッドがあっても稼動させられないという 非効率が起きる。したがって、現場では週40時間勤務の非常勤看護師という、定員には勘定されず、かつ2:1看護はクリアできるという不思議なやり方を とっていました。本省レベルでの話し合いがもう少しうまくできると、現場は本当に助かる。

吉越:大学病院と他の学部との間の問題として、医師や看護師の定員の貸し借りの問題や、例えば工学部との共同研究をもっと進化させていって欲しいと思ったりするのですが。

大島:国立総合大学のメリットは、あらゆる知が集まっていることです。病院は誰もがわかるように、今や機械だらけの場所で、IT技術、 工学技術で成り立っています。倫理、医療安全、医療経営を考えれば、文学部、法学部、経済学部が密接に関連してきます。要するに現代の医療はあらゆる知が 集約的に表れている典型的な分野で、しかも人の生活や生命に直結し、社会との接点がもっとも高いのが病院です。知の拠点としての大学がその存在価値を発揮 していくために、法人化を契機に大学の知の在り方を見直し再編しなければならなくなりました。財政問題の深刻さが強調されますが、科学や技術と社会との関 係がどうあるべきか、大学は知の拠点としてどのような役割を果たすべきか、それが象徴的に出ているのが大学病院の問題です。名大総長はそのことを本当によ く理解されており、その意味も含めて病院改革が大学改革にどのような意味を持つのか、その重要性を指摘されたのだと思います。具体的には工学部だけでな く、学際的連携体制を死活問題だといって積極的に進められていました。

国立大学病院長の理想像とは

吉越:まだまだ、大学病院の経営は予断を許しません。国立大学から独立して全く別の病院法人になってくれ、という意見もでてくるほどのご 時世のなかで、病院経営のレベルが上がっていくにせよ、世界の中で遅れているといわれる臨床研究を強力に推進し、かつ他学部や他大学と連携していく。ある いは、それが国際的なものにもなっていく。
そうした将来のよりよいかたちの中では、どのような病院長が良い病院長とお考えですか。

大島:リーダーはビジョンを示し、その方向に誘導していかねばなりません。そのために必要な資質は何かについては、一般的なリーダーシッ プ論にゆずります。今の日本の医療界という状況のなかで、求められる病院長の必要条件として、医療職が納得してついていけるようなキャリアや能力も必要で しょう。経済的な意味での経営感覚だけでは難しいと思います。今のように厳しい社会の動向については大局的に把握し対応できる柔軟さとタフさも必要でしょ うね。

吉越:専門職員を率いていくには、専門職としての力量がなければ専門職員はついていかないという面があるでしょう。例えば、弁護士事務所 のヘッドは将来も弁護士であるような気がしますが、新聞社の社長は元新聞記者ではないような気がします。大学病院長は、将来も医師以外だと難しいのでしょ うか。

大島:制度上の問題がありますから難しい面もありますが、財務諸表が読め、経理がわかるといった経営面のスキルは、新たに獲得するか、強 力な副官が必要となります。しかし、病院長の力量が問われるのは、患者さんの満足・職員のやる気・財政の健全性などの間にトレードオフが発生したときに、 どのような優先順位をつけるかです。そのときには、医療制度の動向、世論の動向、世界の動向など、かなり幅広い見識が求められます。そして、大学ですから 研究の動向や、教育の在り方について、一定以上の理解だけでなく、実績と見識が求められるのも当然でしょうね。

吉越:医工連携を本当に進めることを考えても、工学部との人的ネットワークを築いておく必要があります。こうして考えますと、病院長は医師がなるとして、病院長候補は数年くらいをかけてしっかりと経営の勉強をするなど準備することが必要です。病院長の育成プログラムです。

大島:確かに、おっとり刀でできるような仕事ではありません。さらに言うと、事務の方にもっと頑張ってもらわないといけない。病院長が良 い仕事ができるか否かは、良い事務方をもてるか否かにかかっています。もっと、プロフェッショナルとしての自覚と能力を持った方が病院事務には不可欠で す。

吉越:私は思うのですが、これだけ重要な責務を負う病院長を選挙で選ぶというのは、問題が多すぎると思います。多数決で経営が成り立つな ど、ありえません。国立大学病院長の選出の問題は、医局講座制をベースとする選挙です。せめて、選挙では3名の候補に絞り込むまでとし、その中から現病院 長なり選考委員会が指名するというやり方が必要だと思います。現行の任期2年、再任の前例なしは、これからはあまりにも責任感がないような気がします。

大島:それはよく理解できます。私は、まず、病院長だけでなく公的機関の長はどんな責務があって何をするのかを世間に公表し、その成果が あがったか否かによって、出処進退が決まるような仕組みを作ることが必要だと思っています。公的機関は、国費を使って運営されていますから、国民がなるほ どという納得感を得られるような、アウトプットを出せるかどうかが問われます。病院長は、掲げる公約の質とその成果によって評価されなければならないと考 えるわけです。あえて言えば、将来は任期5年、3年の再任ありというあたりで、投票で決めるのではなく、最終決定は理事会あるいは総長による判断で決める 方が責任の所在がはっきりしてよいと思います。

吉越:どうもありがとうございました。

(文責:あじま たかとも コーポレイトディレクションパートナー)

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