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CDIメディカル サポーターシリーズ 第六回
正林和也さん「国内初、脳血管血栓除去デバイスの開発!!」

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~まず、はじめに~

今回は、血管内治療用医療機器の研究・開発・製造を行っている「株式会社 Biomedical Solutions」の代表取締役 正林和也さんをゲストにお招きしました。正林さんは、2013年に27歳でBiomedical Solutionsを設立した後、数々のベンチャーキャピタルからの資金調達、AMEDの医工連携事業化推進事業への採択などを経て、国内初の脳血管血栓除去デバイスの開発(抹消血管用としては世界初)に成功したベンチャー企業の創業者です。本年2月に、Biomedical Solutionsは大塚ホールディングスグループの株式会社JIMRO社と株式譲渡契約を締結し、現在は大塚ホールディングス傘下で活動されています。今回は、正林さんから、創業してから今までの経緯やこれからの医療業界/医療機器開発の思うところを話して頂きましたので、是非、お楽しみください。

【正林和也さん ご略歴】
1985年 生まれ
2008年 慶應義塾大学環境情報学部卒業
2008年 株式会社三菱東京UFJ銀行入行

2013年 株式会社Biomedical Solutions創業

 構成

(1)~創業から今までの経緯~
(2)~製品開発の成功とその要因とは~
(3)~これからの医療業界/医療機器開発に思うところ~

~創業から今までの経緯~

CDIM:Biomedical Solutionsの会社概要について教えて頂けますか?

正林:Biomedical Solutionsは2013年に兄と一緒に創業したベンチャー企業で、急性脳梗塞治療用の医療機器を開発・製造しています。本社の東京/日本橋で研究開発を行い、国内外の協力企業に製造を一部委託しています。

CDIM:2013年の創業から今までの経緯について教えて頂けますか?

正林:エンジニアである兄と2人で会社を創業しました。私の兄は金属学/材料力学を大学/大学院学んだ後、米国のUCLAの研究機関で研究しており、その後実際に米国のベンチャー企業にて頭蓋内ステントの製品開発に携わった貴重な経験を持つエンジニアです。私は、大学を卒業後、銀行に就職し法人取引業務に従事しておりましたが、2013年に退職し、兄が研究していた技術をもとに、Biomedical Solutionsを創業しました。創業当初は会計事務所の一画を借りて、机1つで事業をスタートし、経済産業省等の政府系による事業支援を受けながら研究開発を進めていきました。創業して約1年後の2014年の秋頃、プロトタイプが完成したタイミングで医療機器に特化したベンチャーキャピタル:MedVenture Partners 株式会社等から1.5億円の資金を調達して、開発を進めてきました。

そして、臨床開発が開始された2015年に大塚ホールディングス傘下において医療機器事業の中核を担う株式会社JIMRO社とステント型血栓除去デバイスにおける共同開発に合意しました。最終的には、2017年2月14日にJIMRO社と買収契約を締結しました。契約締結後の現在も引き続きBiomedical Solutionsとして開発を進めております。

CDIM:銀行勤務時の経験は創業時の業務に有効でしたか?

正林:創業時は、資金調達をはじめとするファイナンス業務全般において銀行時代の経験が活きました。一方で市場調査、開発スキームの構築、臨床現場での専門知識取得、製造管理、品質管理、リスクマネジメント等の医療機器開発における仕組み作りといった初めて経験する業務が多かったです。今振り返ると大変な苦労をしましたが、この現場での叩き上げの経験が、医療機器開発をマネジメントする上での礎になったと思います。

CDIM:起業前に銀行で勤務していたとのことでしたが、どのようなきっかけで医療業界に関わりを持ったのですか?

正林:兄が学生時代からステントの研究開発に関わっていたことがきっかけで、就職する前から、将来は医療機器の分野で起業したいと漠然と考えておりました。起業するにあたり、必要となる財務面の知識の習得や、人脈作り、お金を扱うことに慣れることを目的に、先ず銀行に就職しました。

CDIM:他業種から医療業界に参入されますと、医療慣習に慣れるまで時間がかかったのではないですか?どのように勉強されたのですか?

正林:専門性の高い知識や用語、関連法規の解釈・理解には大変苦しみました。起業当初からドクターのありがたい配慮もあり臨床現場にどっぷり浸かり、必死に学びました。また専門資料はもちろんのこと、薬事法やISO等の製造/品質管理にかかわる規格について、開発を進めながら現場で理解し、体得してきました。

CDIM:製品についてご質問させて頂きます。ステント治療は心臓や体内の様々な箇所の治療に使用されていますが、どの様な理由で一番リスクの高い脳血管血栓除去ステントの製造をターゲットにされたのでしょうか?

正林:創業当時、脳血管以外のステント市場は多数のメーカーが既に参入しており、我々が参入できる余地がありませんでした。しかし、脳領域においては2000年代からステントの臨床応用が始まったばかりで歴史が浅く、この領域でなら勝負できると考えておりました。我々が注目していた急性期脳梗塞は、脳梗塞の中でも死亡率が高く重篤な疾患ですが、創業当時はt-PAという薬剤を用いた血栓溶解療法が治療の第一選択であり、デバイス開発が進んでいない領域でした。この薬剤を用いた治療の適応時間が発症後4時間半以内とかなり限定的であり、また治療成績も決して良いものではありませんでした。そこで、ステント等のデバイスを用いた血管内治療であれば、従来の内科的治療よりも良い臨床成績が期待できるのではないかということを、臨床経験豊富な国内外の複数のドクターを通じて聞いており、この領域を開発のターゲットとしました。

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~製品開発の成功とその要因とは~

CDIM:今迄のお話を伺っていると、順調にビジネスが進んでいると思えたのですが、創業した当時からビジネスを構築する自信があったのでしょうか?

正林:今振り返ると決して順調だったわけではなく、経験が浅かった私にとっては事業/開発スキームを構築する上で、数々の想像以上の苦難がありました。しかし、我々のターゲットである脳梗塞の市場が拡大することや、また創業時から力を入れて取り組んできた知財の面(ステントの構造特許の取得)による競争優位性を確立することについては自信がありました。そのため、海外のベンチャー企業やメーカーに先手をとられないよう、「早期に製品開発を行い、承認を取得する」ことに重点を置いて活動していました。つまり、なるべく早く臨床試験を行い、実臨床で開発品の有効性/安全性に関する臨床データを取得する事に専念していました。

CDIM:製品を開発することに特化したビジネスですね。日本ではなかなか見受けられないビジネスモデルだと思いますが、どのようなきっかけでこのビジネスモデルを考えついたのですか?

正林:創業前のことになりますが、海外のベンチャー企業が画期的なステントを開発し、大手のメーカーがこれを会社ごと買収するという事例に多数出会いました。この事例が我々にとって衝撃的で、海外ではドクターや研究者が起業して、革新的な製品を開発し、臨床試験に成功し承認を取得した時点等で、大手に売却するというビジネスモデルが確立されています。これは「医療機器におけるエコシステム」と呼ばれているのですが、シリコンバレー式のビジネスモデルを日本でも確立したいと思ったことが、現在のビジネスを始めたきっかけです。

CDIM:大企業に販売するにあたり、株式譲渡をする以外に、ライセンスアウト/ライセンス販売など、他のビジネスモデルは考えていなかったのですか?

正林:資金繰りがとても苦しい時に、ライセンス契約の打診を何社か受け検討はしましたが、そもそもライセンスビジネスを考えていなかったことや、交渉中に開発品情報が漏れることを避けるため、交渉するに至りませんでした。ぐっと我慢した時期です。また、知財についても、云わば情報戦のような側面もあるので、特許を出願するタイミングにも細心の注意を払いました。

CDIM:成功の要因には協力/支援して頂いた方々との出会いや巡り合わせが多くあったと思いますが、どのようにして関係性を築いていかれたのでしょうか?

正林:最初は協力して頂ける企業や支援者がなかなか見つからない状況でしたので、医療機器に興味がありそうな企業全てに、しらみつぶしにコンタクトを取っていきました。もちろん、連絡してもお会い頂けない事が多かったですし、お会い頂けてもいきなり決裁権者に会うことはできませんので、担当者ベースでの関係構築を地道に積み重ねていきました。また、ある部品の提供をメーカーに依頼した際には、サンプルでさえ貰えないこともあり、自分達の立ち位置の低さを身に染みて感じました。だからこそ、そのような中で創業時から協力して頂いた方々には本当に感謝していますし、今でも良好な関係を構築させて頂いております。

CDIM:信頼関係を構築することがビジネスの成功の大きな要因だったようですね。次に今回のM&Aについてお聞きします。複数の企業から買収のオファーがあったかと思いますが、最終的にどのようにして譲渡先を決められたのでしょうか?

正林:創業当時の一番苦しい時に経済産業省から事業支援を頂けたことで今の我々があると言っても過言ではありません。その為、国への恩返しの意味も込めて、我々の開発した医療機器は、可能であれば国内企業に手を挙げて頂きたいと望んでいました。そして何より医療機器業界の中でも治療機器に関しては外資系企業が市場を席巻している環境にあり、この状況に何とかして風穴を開けたいと考えていました。そんな中で大塚グループJIMRO社は臨床開発前の段階から我々の開発品に興味を持って頂き、そして一貫して、手厚いサポートを頂きました。そのような経緯もあり、厚い信頼関係が構築できていた大塚グループのJIMRO社との契約締結を決めました。もちろん、ベンチャーキャピタルから更なる資金調達を行い、開発を進捗させた方が倍以上の買収金額になる可能性もあり、実際にそのようなオファーも受けておりましたが、海外ベンチャーのM&Aのように金額優先ではなく、今までの信頼関係や、いち早く承認を取得することを最優先に考え、売却先を決めました。

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~これからの医療業界/医療機器業界に思うところ~

CDIM:今までは事業についてお話をお伺いいたしましたが、異なる業界から参入されて、色々と医療業界にお気づきの点があると思います。最後に、医療業界を思うところ、また今後、医療業界はどのような環境になれば良いと感じていることを少しお話していただけますでしょうか?

正林:1つ目は、M&Aを通した技術革新の推進です。ご存じの通り、IT業界ではM&Aによる技術革新が日常的に行われています。しかしながら、医療機器業界ではこの考えが全く浸透していません。例えば、国内企業にも、研究開発意欲があり良いアイディア・技術があるにも関わらず、主体的に開発に携われていないエンジニアが多くいます。そのようなエンジニア自らが起業に携わることで、自らのアイディアや技術を最大限生かして革新的な機器の開発に取り組む、という風土や仕組みが確立できればと思っています。大学在学中など、早い段階で「医療機器におけるエコシステム」という考え方に触れるような機会があれば、海外の最先端の研究開発の現場や、開発型ベンチャー企業で働くなど、自ら事業化の現場に身を投じる研究者も増えると思います。そこで承認デバイスの開発経験を積んだエンジニアが起業に携わり、医療機器開発に取り組むといったことが起きてくれば、国内の医療機器業界は活性化していくと思っています。

2つ目に、医療機器を開発するため環境整備です。現在、国内にもインキュベーターが存在していますが、臨床開発経験豊富な臨床ドクターとのコネクション不足や、設計開発~製造/品質管理~臨床開発まで含めた一貫した医療機器開発をサポートできる人材が不足していると思っています。海外では、臨床ドクターが医療機器ベンチャーとコンサルティング契約をして研究/開発を行っており、臨床観点から開発がスタートします。エンジニアも臨床をよく理解しながら開発を進めることができるので無駄がなく加速度的に開発が進んでいきます。一方、日本では臨床ドクターとの連携が容易ではなく、開発当初から臨床的な観点が不足しています。そして、実際に医療機器の設計/検証を行う上で、規格を参照した試験方法や規格値を基に検証データの信頼性や妥当性を示す必要があり、また機器の製造管理、品質管理をする上でもQMSの体制構築が求められます。これらの対応は理論・原理を知っているだけではなく実務経験がないと難しいと考えます。

開発の現場経験を積んだ人材が、事業化/製品化に必要となる開発体制を構築支援可能なインキュベーション施設等を設立し、モノになりそうな技術はスピンアウトさせてベンチャー化することも一つの解決手段かもしません。

最後に、現在、日本の医療費は40兆円を超えていますが、脳血管疾患に関わる医療費は1兆円8,000億円程度と言われ、その多くを入院費が占めている状況です。今回、我々の開発品が上市し臨床現場で実際の治療に使われる事で、患者さんの転帰が改善し、入院日数の短縮化にも繋がると考えています。つまり医療費の削減、更には健康寿命の延伸につながると思っています。今後も、患者さんや社会に貢献できるような医療機器が国内からもっと誕生して欲しいと思っていますし、我々もそれに挑戦していきたいと思っています。

CDIM:今日は貴重なお話をありがとうございました。正林さんのお話をお伺いして、「Biomedical Solutions」のような企業が国内からより立ち上がるよう支援していきたいと感じました。本当にありがとうございました。

(終)

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