【CDIメディカルEye 】“薬機法の改正について(その1)”-ご準備は大丈夫ですか?-

薬機法の改正について(その1)

皆さんご存じのように、医薬品医療機器法(薬機法)の一部が昨年11月に国会において改正されました。今回の改正には、、医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善、薬剤師・薬局の在り方の見直し、法令遵守体制の整備、医薬品等行政評価・監視委員会の設置、採血制限の緩和など広範多岐にわたる改正事項が盛り込まれています。現在、厚生労働省において、その施行のための準備が3段階に分けて進められております。全ての改正事項の施行は3年をかけて実施されますが、公布から1年以内という早い段階の改正事項は、本年の9月1日に施行されることとなっております。

このコラムでは、今回改正された薬機法改正の内容やその与える影響などについて、改正の背景なども含め連載で解説してまいります。今回は、法改正事項全体の背景と目的についてです。

〇法改正の背景・目的

薬機法改正が国会(第198回(常会))に厚生労働省から提案された際に、その改正の理由が説明されていますので紹介します。

「①少子高齢化に伴い人口構造が変化する中で、住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うこうことができる環境を整備することや、技術革新等が進展する中で、国民のニーズにこたえる優れた医薬品、医療機器等をより安全かつ迅速に提供することを通じて、健康寿命の延伸など保健衛生を向上させていくことが必要です。

②また、過去に発生した医薬品の製造販売等に関する不適切事案の経験を踏まえ、医薬品、医療機器等の安全性を十分に確保し、健康被害の発生や拡大の防止を図ることが必要です。

③これらを踏まえ、医薬品、医療機器等が安全かつ迅速に提供され、薬剤師及び薬局が地域の中でその専門性に基づく役割を果たし、関係事業者が法令遵守体制の整備を行うこと等を目的として、この法律案を提出いたしました。」(①②③は筆者挿入)

 実は、平成25年11月に薬事法が大改正されて薬機法となった際に、附則(法律の規定を補うために末尾に付ける)において、施行後5年を目途として必要な措置を講ずるとされていました。そのため、今回の法改正は、前回の改正から5年間(年金2000万円問題などで国会通過が遅れて6年間)若しくはそれ以前からの政府(厚生労働省)の医薬品、医療機器、薬局、薬剤師などについての問題・課題意識を反映していますので、それぞれ見ていきます。

①については「少子高齢化に伴い人口構造が変化する中で、住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うこうことができる環境を整備すること」が示されています。これは、少子高齢化時代への対応として厚生労働省が推進している「地域包括ケアシステム」の構築の一環として、地域における医薬品の使用の環境をより整備していく必要があるという課題です。今回の改正においては、薬剤師の服薬指導や患者の薬剤使用情報の医師等への提供努力義務の法制化、機能別薬局の認定制度、テレビ電話等による服薬指導を可能とすることが挙げられます。

また、「技術革新等が進展する中で、国民のニーズにこたえる優れた医薬品、医療機器等をより安全かつ迅速に提供すること」が示されています。医薬品等の開発においては、国際共同治験が活発に行われる一方、企業が各国の開発の制度環境等に基づき開発拠点を選ぶという状況があります。また、個別製品を連続的・網羅的に確認する品質管理技術の進展や市販後に絶え間ない改善・改良が必要な医療機器は現行の承認制度では対応が困難であるなどの状況があります。そのため、このような状況に適応できる承認、品質管理の制度が求められています。今回の改正においては、既に通知により運用されている「先駆け審査指定制度」「条件付き早期承認制度」の法制化、変更計画による承認事項の変更手続の見直し、国際整合化に向けたGMP/GCTP調査の見直し、医療機器の特性に応じた承認制度の導入などが挙げられます。

②については、「過去に発生した医薬品の製造販売等に関する不適切事案の経験を踏まえ」と示されています。これは、虚偽誇大広告違反として行政処分が行われた「ディオバン事件」、偽造品が流通した「ハーボニー配合錠偽造品事件」、承認書と異なる製造方法による血液製剤が製造され査察逃れのために製造記録を偽造していた「化血研不正製造事件」など、ここ5年間でも重大な違反事件が複数発生している状況があります。また、医療機器販売業者を営む輸入代行業者が虚偽の申請で得た薬監証明により未承認の医療機器を輸入し国内で販売して、詐欺罪で刑事告発された事件も平成29年に発生しています。このような不適切事案を未然に防ぐために、企業における製造、流通販売のガバナンスの強化、違法行為の抑止のための行政処分が求められています。

今回の改正においては、許可業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け、虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設、医薬品等の輸入に係る確認制度の法制化などが挙げられます。

そして、③において、「医薬品、医療機器等が安全かつ迅速に提供され」、「薬剤師及び薬局が地域の中でその専門性に基づく役割を果たし」、「関係事業者が法令遵守体制の整備を行うこと」の3つの目的が強調されており、これらが今回の法改正のメインテーマと言えます。

なお、前回(平成25年)の法改正において、付帯決議(政府が尊重すべき国会の決議)により速やかに検討を行うこととされた医薬品等行政評価・監視委員会の設置、及び附則にて5年を目途として見直しが規定された血液製剤の安全性及び安定供給の確保についても、今回の法改正に合わせて改正されております。

以上、今回は薬機法の法改正事項全体の背景と目的について解説いたしましたが、次回は、改正事項の概要と施行予定について解説していきます。

文責:岡野内 徳弥

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岡野内 徳弥(株式会社CDIメディカル 主査)

静岡県立大学大学院薬学研究科修了、桐蔭横浜大学法科大学院修了、マサチューセッツ大学ローウェル校ビジネススクール修了。博士(薬学)、
法務博士、MBA(経営管理学修士)

厚生労働省、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、国立医薬品食品衛生研究所、環境省、法務省、神奈川県を経て、現在に至る。