【CDIメディカルEye】医療連携活動の目的は信頼で結ばれたコミュニティの形成

紹介患者獲得は認知されて信頼を勝ち取るマーケティング活動

在院日数の短縮が求められ、病床稼働率が低下していくなかで、自院に適した重症度の紹介患者を集める重要性が増しているのはご承知のとおりです。

前方連携推進の担当の方が、その活動を自ら「営業」と言われているのを時折聞きますが、その取り組みは一般企業でいうマーケティング活動そのものです。地域医療連携活動の最も重要な目的は、連携先から認知され、信頼を得ることです。

認知され、継続的に紹介がおこるプロセス

最重要の連携先である、紹介件数の多い親密紹介元は、当院と信頼関係を構築するまでに、どのような経緯を経てきたのでしょうか。最初に、当院を認知し、評価し、信頼できそうだと思い、試行的に紹介を行い、さらに信頼を深めて継続的に紹介を行うというプロセスを経ているのではないでしょうか。

このプロセスは、商品サービスの認知度を上げ、コンタクトできる見込み客を増やし、定期的に情報提供しながら、信頼関係を構築して、トライアル(試行)に導き、継続的に購買するロイヤル顧客になってもらうという、一般企業のマーケティング活動とほぼ同じです。

連携先を関係性で分けて取り組みを考える

連携先は、以下のように、当院との関係性の度合いでセグメントに分けて、対応することが肝要です。

① 当院のことを認知していない
② 当院のことを認知はしているが、紹介がない(あるいは年に1~2件と稀)
③ 当院を評価し、信頼しつつあるが、紹介はそれほど多くない
④ 当院を信頼して、入院につながる患者を多く紹介してくれている(親密先)

①については、まず認知されなければなりません。
②については、評価され信頼を勝ち取らねばなりません。

上記①と②については、当院をアピールするために、メルマガ、FAX、広報誌などを、定期的に配信・送付してコミュニケーションを取り続ける必要があります。
③については、なぜ、親密先にならないのか、その理由を探求しなければなりません。この中から、将来の親密先となりそうなターゲットを設定して、積極的にアプローチするべきです。
④の親密先は、当然、関係の維持・強化を図っていかなければなりませんが、特に紹介件数の減少には注意を払い、その原因をつぶしていかなければなりません。

紹介獲得が可能な患者数の推定

重点先をみつけるために、それぞれの紹介元から紹介患者が最大どれくらい見込める可能性があるのか、推定できていれば理想的です。

全ての紹介元を細かく明確に把握するのは難しいでしょうが、特に、紹介をうけて、情報のやりとりが発生している紹介元に関しては、関係を構築していく中で推定して、大中小というカテゴライズができていれば、アプローチの優先順位づけの判断材料になります。紹介件数の増減、紹介患者から聞いた待ち時間などの混み具合、取引先の薬品ディーラーから収集した患者数情報など、紹介元の状況を常に注視し、そのポテンシャルを推定しようとしている地域連携室の責任者もいます。

ターゲット先の設定

連携先に対するアプローチは、満遍なく同じようにやるのではなく(限られた人員、時間からそれは無理でしょう)、親密先と同じように紹介患者数が増える可能性のある先を抽出して、ターゲット先として優先的にアプローチするべきです。

全体患者数の割に当院への紹介が少ない(他院へ紹介してそうな)先や、当院の強み診療科をもっていない(良い紹介先をさがしている)先は有望先となります。

当院への紹介の潜在力が大きそうなのに、なぜ、現状、紹介件数が少ないのか、推察し、確認することが重要となります。

・ 地理的な要因で敬遠されている
・ 他の紹介先病院の医療レベルを当院より評価している
・ ブランドによって患者が他院を希望することが多い
・ 大学の系列など医師同士のつながりが他の病院に比べて弱い
・ 当院のことをよく知らない、評価していない
・ 過去に当院とトラブルがあった(受入拒否をして反発をかった)

など、ターゲット先については、その認識を常に考察し確認して、それぞれに対応策を実施していく必要があります。

また、診療内容など、親密先と似たような形態の医療機関も有望です。親密先は、他の病院がある中で、なぜ、当院に紹介してくれているのでしょうか。その要因を考察し、同様の施設がないのか、再検討してみるべきです。

相手に認めてもらうための最初の対応

このように主体的にアプローチした先に評価されて、「では紹介しましょうか」と、試行的に紹介された最初の1件は、対応困難な事例が多いとの声も聴きます。その際に、「これはこちらの対応をみているんだ。きっちりと対処して実力をみせてやろう」と担当医師がスタッフを励まして、乗り切った話もきいたことがあります。

また、紹介患者に関する返書や状況報告などの情報共有が不足していると、紹介元クリニックの不満の声を聴くことが多くあります。このことは、見方を変えると、きちんとやることで、容易にその他大勢の病院と差別化を図ることができることを意味します。特にターゲット先からの最初の患者に対しては、丁寧に対応すべきです。

最初の案件への対応が重要であることは、医師と院内スタッフで共有しておくべきです。それまでにアプローチしてきた努力が、最初のまずい対応でフイになり、以後、紹介が途絶えてしまうことになりかねません。

 講演会、研修会、症例検討会による関係構築

医師同士の「顔のみえる」信頼関係の構築には、講演会、研修会、症例検討会が有効です。「開業医とのプロとプロとのつきあいで大事なことは、当方がオピニオンリーダーであること。オピニオンリーダーとは、優れた見識・意見をもち、医療成績がよく、学術活動も認められ、人柄がよいことだ」と地域医療連携推進の責任者の医師の方が言われていました。地域連携室は情報発信して、医師を売り出していくプロデューサー的な役割もはたしていくことになります。

紹介患者に行った治療の説明は、地域の開業医の先生も聞きたいと思っているはずです。「クリニック側が欲している、参考となる情報は何なのか」を常に考え、研修会の実施後にも聴取することが必要です。参加者の少ない研修会は、なぜ集まらなかったのか、その理由を探求すべきです。

診療科ごとに定期的に開催すれば、研修会も結構な回数になるかもしれません。年間スケジュールを組み、地域連携室のスタッフが、開催前には案内を行い、開催後には、感想、評価、要望を聴取すれば、先方との情報のやりとりも増します。

当然、当院をアピールするために、メルマガ、FAX、広報誌などは、定期的に配信・送付すべきです。この定期配信に対する意見や要望を聴取すれば、紹介元のニーズに合った研修会の企画もできるのではないでしょうか。

 「顔のみえる」信頼関係のあるコミュニティの形成

登録医が形骸化しているとの反省の声を聴くことがありますが、このような、紹介元との間で、情報提供と意見交換を行う「顔のみえる」信頼関係のあるコミュニティが形成されていれば、連携もスムーズにいくのではないでしょうか。

診療において、紹介元の医師が先進の診断機器を共同利用し治療へも参画しているところもあります。この共同での診療を通じて、お互いの理解が進み、より強い信頼関係が築かれているとのことです。

研究会や研修会はそのための医療レベルの向上という側面もあり、お互いの技量を評価する側面ももっています。紹介元に対しても、診療への参画だけでなく、治療後のフォローを安心して任せられるのか、逆紹介をして大丈夫な先なのか、評価・選別している緊張感をもった関係となっている地域もあります。

地域医療連携活動の最大の目的は、そのような、お互いが認めあう、強い結びつきのコミュニティの形成にあると思います。

文責:藤井 康弘

藤井 康弘(株式会社CDIメディカル シニアコンサルタント )

慶應義塾大学文学部(人間科学専攻)卒。 
ライフタイムパートナーズ株式会社、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社、他を経て、現在に至る。