【CDIメディカルEye 】“薬機法の改正について(その7)”-ご準備は大丈夫ですか?-

薬機法の改正について(その7)

薬機法改正についてのコラム(その7)です。今回は、昨年9月に改正された事項として、薬剤師による継続的な服薬状況の把握及び服薬指導の義務、及び患者の薬剤使用情報を他医療提供施設の医師等へ提供する努力義務(以下、「継続的服薬指導等義務及び患者薬剤情報提供努力義務」)の法制化について解説いたします。

1.改正事項の背景

医薬分業については多くの方がご存知かと思いますが、医師が患者に処方せんを交付し、薬局の薬剤師がその処方せんに基づき調剤を行い、医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担し医療の質的向上を図るものとされています。法律上は、1950年代から制度*1としてあったのですが、1990年代(平成時代)になってから急速に進んできました。そして、現在では処方箋受取率が70%を超え、地域においてバラツキはありますが、病院やクリニックで診療を受けて処方箋をもらい、薬は薬局で受け取るということが定着しました(図1参照)。

*1:患者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合等は除く(薬剤師法19条、医師法22条他)。

図1 処方箋受取率の年次推移(厚生労働省 医薬品医療機器制度部会第5回資料より)

医薬分業には、「薬剤師が処方した医師と連携して、患者に服薬指導をすることで患者の理解が深まり、薬を適切に服用することができる」、「薬局で薬歴管理をすることで複数診療科受診による重複投薬、相互作用の有無の確認などができる」といった薬物療法の有効性・安全性の向上が期待されています。

一方、医薬分業をコスト的にみますと、保険医療における調剤関連技術料は医薬分業をした場合(院外処方)と医薬分業をしない場合(院内処方)を合わせて約2兆5千億円(2016)です。仮に全てを院内処方で対応した場合の費用は約8千億円で、その差、すなわち医薬分業のコストは年間約1兆7千億円となります*2。これは国民1人当たりに換算すると約1万3千円の負担となります。

このように国民の負担によって実施されている医薬分業ですが、「患者の服薬情報の一元的把握などの機能が必ずしも発揮できていないなど患者本位の医薬分業になっていない」、「医薬分業を推進するため患者の負担が大きくなっているにもかかわらず、負担の増加に見合うサービスの向上や効果などを実感できていない」などの指摘がされています*3

このような指摘等があり、患者本位の医薬分業の実現に向けて、今後の薬剤師・薬局の姿を中長期的に提示した「患者のための薬局ビジョン」を厚生労働省は策定しています(図2参照)。

図2 「患者のための薬局ビジョン」(厚生労働省HP「薬局・薬剤師に関する情報」より)

「患者のための薬局ビジョン」においては、現在の薬局を「かかりつけ薬剤師・薬局」に再編する道筋や、「かかりつけ薬剤師・薬局」が持つべき機能として、「服薬情報の一元的・継続的把握」、「24時間対応・在宅対応」、「医療機関等との連携」が示されています。これらの機能を整備することを中心に今回の薬機法改正が改正されています。

なお、図に示されています「健康サポート薬局」については、2016年より開始され2,160の薬局が届出ています(令和2年6月30日時点)。

*2:「調剤薬局に現状について」(第4回医薬品医療機器制度部会 日本医師会提出資料 2018年7月5日)。

*3:「規制改革に関する第3次答申」(規制改革会議 2015年6月16日)他

2.継続的服薬指導等義務及び患者薬剤情報提供努力義務の内容*4

薬局において薬剤又は医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師の調剤された薬剤及び薬局医薬品(以下、「薬剤等」)の情報提供及び指導等として、次に掲げる方法が定められました*5

①薬剤等の使用に当たり保健衛生上の危害の発生を防止するために必要な事項について説明をする。

②薬剤等の用法、用量、使用上の注意、併用薬の適正な使用のために必要な情報を状況に応じて個別に提供又は必要な指導をする。

③お薬手帳の所持や活用の勧奨をする*6

④情報の提供又は指導を行った薬剤師の氏名を伝える。

⑤継続的服薬指導等を行うため必要がある場合には、薬剤等の購入する者の連絡先を確認した後に販売をする。

⑥薬局医薬品の情報の提供又は指導の際に、必要に応じて、当該薬局医薬品に代えて他の医薬品の使用を勧めることや、医師又は歯科医師の診断を受けることを勧める。

⑦継続的服薬指導等を行うべき場合に把握すべき患者情報として、薬剤等の販売時の確認事項*7のほか、服薬状況及び服薬中の体調の変化を確認する。

⑧情報提供・指導を行った際には、年月日、内容の要点、情報提供・指導した薬剤師の氏名並びに情報提供・指導を受けた者の氏名・年齢を記録し、記録を3年間保存する。

*4:「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令の整備等に関する省令の公布について」(薬生発0831第20号 令和2年8月3 1日)

*5:法律上は、薬局開設者が開設薬局において薬剤師に行わせなければならない義務となっている。

*6:「お薬手帳」とは患者の薬剤服用歴その他の情報を一元的かつ経時的に管理できる手帳のこと。また、要指導医薬品、一般用医薬品の使用においても「お薬手帳」が奨励されている。

*7:確認事項として他の薬剤等の使用状況、現在罹患している他の疾病、妊娠、授乳等がある。

以上、今回は継続的服薬指導等義務及び患者薬剤情報提供努力義務の法制化について解説いたしました。次回以降も改正事項について解説していきます。

文責:岡野内 徳弥

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岡野内 徳弥(株式会社CDIメディカル 主査)

静岡県立大学大学院薬学研究科修了、桐蔭横浜大学法科大学院修了、マサチューセッツ大学ローウェル校ビジネススクール修了。博士(薬学)、法務博士、MBA(経営管理学修士)

厚生労働省、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、国立医薬品食品衛生研究所、環境省、法務省、神奈川県を経て、現在に至る。