【CDIメディカルEye 】腸活してますか?

コロナワクチンの接種が進んでいます

前回(4/15)に国内のワクチン接種開始に触れました。それから2ヶ月程たちましたが、6/10の時点でトータルの接種回数が2,000万回を、少なくとも1回接種した方の人数が1,500万人を超えた模様です。また、1日あたりの接種が政府目標の100万回を突破したとかしないとか。これには実際は何回だという報道もありますし、予約が取れない、逆に大規模会場の予約率が低い、等々いろいろあるようです。ですが、はじめての対応で不具合があるのは当たり前だと思いますし、高齢者接種が1日1,000人程度でスタートしたことを思えば、ここまですごく頑張って展開したのではないかなぁ・・・と、いうようなことを日経さんのサイトで推移を見ながら考えます。これから職域接種もはじまりますので、さらにペースが上がるとよいと思います。

参考:チャートで見る日本の接種状況 コロナワクチン(日本経済新聞)

一方、医薬品業界には明るいニュースがありました。6/8に米食品医薬品局(FDA)がアルツハイマー病の治療薬ADUHELM™(一般名:アデュカヌマブ)を承認しました。米国バイオジェンとエーザイで共同開発されたこの製品は、米国のアルツハイマー病の治療薬としては実に18年ぶりの承認であり、またアルツハイマー病の根本的な原因といわれるアミロイドβプラークを減少させる効果がある、という画期的なものです。まだ臨床上の効果を確認していく必要がある段階ですが、大きく治療方法が変わる可能性があり、インパクトの大きいニュースだと思います。

腸活してますか?

さて、今回も前置きがながくなってしまいましたが…みなさんは腸活してますか?

”腸活”のことばそのものをご存じない方はあまりいらっしゃらないかもしれません。以前は善玉菌を増やしましょう!といっていたものが、腸内のバランスを整えましょう!といういい方に変わって来ているようで、アプローチも乳酸菌を摂りましょう、というプロバイオティクスの話に、最近はオリゴ糖や食物繊維も摂りましょうというプレバイオティクスが加わってトレンドも変化していますが、便秘やおなかがゆるいといった症状の緩和にもよい、ダイエットにもよい、いやバランスを整えることによっていろいろ健康によいのです、というものです。

前々から大事ですよね、ということではありましたが、注目が高くなったのは2010年前後のことではなかったかなと思います。腸管免疫*の仕組みや重要性が明らかにされていく中で、Science誌の10大ニュースに腸内細菌と健康の関わりが2011年、2013年と連続して選ばれたあたりから、ベンチャー企業での取り組みや製薬企業などの積極投資が目立つようになったのかなと思います。*腸管には免疫細胞がからだ全体の70%集中していて免疫機能の中心的役割を担っているといわれている

そうした一連の流れから近年では、肥満、糖尿病、などの代謝系の疾患だけではなく、動脈硬化、関節リウマチ、さらには複数のがん、パーキンソン病やうつ病といった神経疾患に至るまでさまざま疾患において腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れと疾患との関係性が明らかとなってきています。腸は第二の脳だとか、心臓だとか、いわれているのもそのようなことが明らかになってきているからなのですね。

腸内細菌ベンチャーの変遷

これらの腸内細菌に関連した研究開発には、ならではというべき悩みがありまして、それは最終的に”ヨーグルトを食べなさい”に着地をしてしまう、というものです。先に触れましたように様々な疾患との関わりが分かってきたのですが、”ではどうしたらいいの?”ということの解が、腸内環境を整えましょう=ヨーグルトやオリゴ糖を食べましょう、となるケースが多いのです。一般の方には何の不都合もない食生活の話ですごくよいことなのですが、それではたくさんの研究開発費とたいへんな努力の結果がビジネスとして結実しません。つまり商売になる「新しいソリューション=医薬品」について、もう一捻り何かを考える必要が出てきます。現在は、腸管免疫系に作用する『有用タンパク質』や特定の『菌』そのものを医薬品にできないだろうか、というアプローチが取られているようです。

もう1つ、この分野のベンチャー企業は当初、”あなたの腸内細菌のタイプが分かります”といった個人向けの検査サービスをA面で提供しておいて、集めたデータを製薬会社に販売する、というB面があるビジネスモデルが主流でした。遺伝子検査の23andMeやパーソナルヘルスレコード(PHR)のPatientsLikeMeといった企業もこうしたモデルが基盤となっていますし、いわゆるデジタルヘルスと呼ばれる分野の多くはこうした”データを集めて販売する”ということが根幹にあるのも確かです。ただここ最近は、集めればいいってものでもない、ということが徐々に鮮明になってきているな、と感じます。当たり前といえばそうなのですが、集めただけではそんなに買ってもらえない、ということで、いかに”集めたデータから価値を作るか”ということが重要になります。

そのようなことを思いながら継続的にベンチャーを眺めていると、腸内細菌分野では2015年前後にいわゆる”情報集めますよ”モデルを展開していたプレイヤーが、2020年に改めてみてみると自分で医薬品を開発する”創薬ベンチャー”に変化をしているようです。腸内細菌による体質検査と患者のグループ化サービスを展開していた代表例であるEnteromeは、膠芽腫やB細胞性悪性腫瘍に関するOncoMimics(タンパク質)を用いた腫瘍免疫療法の臨床試験中です。コンソーシアムを通じて大規模データ収集をしていたSecond Genomeは、炎症性腸疾患(IBD)を対象にした治療用タンパク質で臨床試験に取り組んでいます。どちらの企業も当初は腸内細菌との関係性が明確だった糖尿病をターゲットにデータ収集のビジネスをスタートさせていた点も興味深いところです。

もちろん対象としているデータの種類やその利用用途にもよるところですが、腸内細菌の分野はこれだけでデータ販売モデルから、いち早くターゲットを見定めて自ら創薬に舵を切ったプレイヤーが生き残っているようです。データ集約とビジネスモデルの関係は興味深いテーマだと思いますので、今後も注目をしていきたいな、と思いますが、ただとにかくデータを集めたもん勝ち、とならないところもライフサイエンスの分野の面白いところなのかもしれませんね。

腸活はもちろん体によいことなので、是非みなさんも走ってヨーグルトをお買い求めに行って頂ければと思います。

【ご参考・企業】
Enterome: https://www.enterome.com/
Second Genome: https://www.secondgenome.com/

文責:伊藤 愛

伊藤 愛(株式会社CDIメディカル コンサルタント)

大阪大学大学院薬学研究科修士課程修了(薬剤師)。京都大学大学院医学研究科修士課程修了。

商社、独立系ベンチャーキャピタル、ヘルスケア・バイオベンチャー企業、経営コンサルティングファーム等を経て現職。ライフサイエンス・ヘルスケア分野を中心に、中期経営戦略等、新規事業戦略、海外展開、オープン・イノベーション戦略等、戦略立案から実行支援を含むコンサルティングを実施。