【CDIメディカルEye】モバイルヘルス製品を事例とした医療機器開発に関わる制度(その2)

医療機器を上市するためには、製造販売業の許可と販売しようとする製品の品目ごとに承認、認証又は届出が必要となります。今回は、この承認の審査制度とその具体的な内容についてモバイルヘルス製品を事例としてみていきます。

1.医療機器の承認審査制度

まずは、承認制度の全体像をみてみます。下図は医療機器の承認審査の流れを示しています。

① 承認申請

承認を取得しようとする者(申請者)は、申請する品目に応じた製造販売業の許可を受けていることが必要となります(外国製造医療機器製造販売を除く)。申請者は、厚生労働大臣に申請する品目にかかる承認申請書と添付資料を提出します。

② 書面審査

医薬品医療機器総合機構(PMDA)により、提出された承認申請書及び添付資料について、申請内容の審査が行われます。

③ 信頼性調査

PMDAにより、提出された承認申請書及び添付資料が適切に作成されたものであるか、実地又は書面で調査が行われます。

④ 審査報告

PMDAで行われた審査及び調査の結果が厚生労働省に報告されます。

⑤ 諮問・答申

厚生労働大臣により、薬事・食品衛生審議会 薬事分科会 医療機器体外診断薬部会(以下、「審議会」)に当該承認申請品目について諮問がなされ、審議会で審議の上、厚生労働大臣に答申がなされます。ただし、審議会に諮問される品目は「新医療機器」(既承認医療機器とは、構造、使用方法、効能・効果・性能が明らかに異なる)などに限られます。

⑥ 審査結果報告書

PMDAによる審査結果に加え、審議会での審議を含め、審査経過、評価結果等を厚生労働省が取りまとめられます。

⑦ 承認

以上の承認審査の結果から、申請品目について厚生労働大臣による承認がなされます。なお、図中の製造業(外国製造業を含む)にかかる部分は省略しています。

2.モバイルヘルス製品事例

次に、モバイルヘルス製品(ヘルスウォッチ)として、家庭用心電計プログラムの「Apple の心電図アプリケーション」及び家庭用心拍数モニタプログラムの「Apple の不規則な心拍の通知プログラム」の事例で承認審査の具体的な内容をみていきます。

これらの製品は話題になりましたので、既に利用されている方もいらっしゃるかと思いますが、製品の特徴について示します。

「Apple の心電図アプリケーション」は、第Ⅰ誘導心電図に類似したシングルチャネル心電図を作成、記録、保存、転送、及び表示するプログラムです。動作は、Apple Watchの電気センサを使用してシングルチャンネルの心電図を作成し、インストールされたプログラム(アルゴリズム)により、信号処理、特徴抽出、律動分類(洞調律又は心房細動)がなされ、心電データとしてApple Watch上に表示するものです。

これは、前回に解説したプログラム医療機器(疾病の診断に寄与して医療機器としての目的性を有し、かつ、使用者の生命及び健康に影響を与えるおそれがあるプログラムで、インストール等することによって汎用コンピュータ等に医療機器としての機能を与えるもの)といえます。

「Apple の不規則な心拍の通知プログラム」は、脈拍数データを解析し、心房細動を示唆する不規則な心拍を検出し、ユーザーに通知するプログラムですが、同様にプログラム医療機器となります。

これら2つのプログラム医療機器は、「疾病診断用プログラム」に類別され、「管理医療機器」としてクラスⅡ(人体へのリスクが比較的低い)に分類され、「Apple の心電図アプリケーション」は「家庭用心電計プログラム」、「Apple の不規則な心拍の通知プログラム」は「家庭用心拍数モニタプログラム」との一般的名称となります。

3.モバイルヘルス製品事例とした医療機器の承認審査について

では、ここから医療機器の承認審査の流れに従って、「Apple の心電図アプリケーション」及び「Apple の不規則な心拍の通知プログラム」の事例をみていきます。

なお、説明における情報は、情報開示請求に基づき、厚生労働省から開示を受けた行政文書及び医薬品総合機構から開示を受けた法人文書に基づいております[1]

① 承認申請について

申請者は、「Apple Inc.」(以下、「Apple」)ですが、外国法人(米国)であるため日本において製造販売業を有せず、例外的に「外国製造医療機器製造販売承認申請」により申請しています。これは、日本に輸出する医療機器について外国製造業者が直接承認を受けることができる制度です。申請の際には、日本において当該承認にかかる医療機器による保健衛生上の危害の防止に必要な措置を採らせるために、日本の医療機器製造販売業者(「選任外国製造医療機器製造販売業者(選任製造販売業者)」)を選任する必要があります。

次に、承認申請書及び添付資料 についてです。この承認申請書には、類別、名称、使用目的又は効果、形状・構造及び原理、原材料、性能及び安全性に関する規格、使用方法、保管方法及び有効期間、製造方法、製造販売する品目の製造所が記載されます。

一方、添付資料には、以下のイ~チのうち、申請の区分(新医療機器、改良医療機器(承認基準なし、臨床あり)、改良医療機器(承認基準なし、臨床なし)、後発医療機器(承認基準なし・臨床なし)、後発医療機器(承認基準あり・臨床なし))により資料の範囲が定められています。

「Apple の心電図アプリケーション」及び「Apple の不規則な心拍の通知プログラム」は改良医療機器(承認基準なし、臨床あり)として、イ~チの全ての資料が求められています。

イ 開発の経緯及び外国における使用状況等に関する資料

ロ 設計及び開発の検証に関する資料

ハ 基本要件基準へ適合性に関する資料

二 リスクマネジメントに関する資料

ホ 製造方法に関する資料

へ 臨床試験成績に関する資料

ト  製造販売後等の計画に関する資料

チ 添付文書等記載事項に関する資料

② 書面審査

PMDAにより、提出された承認申請書及び添付資料について、申請内容の審査が行われます。

医療機器の承認審査は、申請された医療機器の性状、品質及び性能が適正であることをチェックすることですが、医療機器としての基本要件(「医療機器の基準」(厚生労働省告示第122号))に適合していること、特定の類別(7類)[2]の医療機器においてはその基準(「42条基準」)に適合していることが求められます。また、承認基準が定められている種別はその適合性を確認するのみで承認できるとされています[3]

疾病診断用プログラムは、42条基準や承認基準は定められていませんので、原則、基本要件への適合性が審査されます。この基本要件には、医療機器として求められる一般的要求事項、医療機器の設計及び製造要求事項等が定められています[4]。特に、プログラム医療機器については、「プログラムを用いた医療機器に対する配慮」事項が以下のとおり定められています。

・プログラムを用いた医療機器(医療機器プログラム又はこれを記録した記録媒体たる医療機器を含む。以下同じ。)は、その使用目的に照らし、システムの再現性、信頼性及び性能が確保されるよう設計されていなければならない。また、システムに一つでも故障が発生した場合、当該故障から生じる可能性がある危険性を、合理的に実行可能な限り除去又は低減できるよう、適切な手段が講じられていなければならない。

・プログラムを用いた医療機器については、最新の技術に基づく開発のライフサイクル、リスクマネジメント並びに当該医療機器を適切に動作させるための確認及び検証の方法を考慮し、その品質及び性能についての検証が実施されていなければならない[5]

このような基本要件等に適合しているかが、承認審査においてチェックされるのですが、PMDAでの実際の承認審査にあたっては、医用工学、生体工学、バイオマテリアルなどについて知識を持つ工学系の審査員の他、医学、歯学、薬学、獣医学、理学、生物統計学などの専門知識を有する審査員が非臨床、臨床、生物統計を担当し、複数名で審査が行われます。承認申請書及び添付資料に基づき、審査側からの疑問点、問題点は照会事項として、確認点は確認事項として問が発せられ、それに回答するという形で審査は進みます。なお、審査の過程で、外部専門家との専門協議を行われる場合があります。

では、「Apple の心電図アプリケーション」及び「Apple の不規則な心拍の通知プログラム」で提出された承認申請書及び添付資料と承認審査の内容についてみていきます。なお、これらの製品は、改良医療機器としてリスク分類Ⅱに該当するものであるため、書面審査により承認の是非が決まり、厚生労働省における審議会での審議は行われません。

まず、審査対象となる承認申請書及び添付資料ですが、厚生労働省及びPMDAへの情報開示請求により、以下のような承認申請書及び添付資料を入手しました(各々A4サイズ98ページ、99ページ(申請書含む))。その内容は、上記で示したイ~チに該当するものですが、アーキテクチャ、モジュール、性能・安全性試験方法、アプリの検証、アルゴリズム、臨床試験(データの一部)、その他個人情報の主な部分は非開示(黒塗り)でした。

また、書面審査におけるPMDAからの照会事項、確認事項とその回答については、以下のとおり入手しました。

「Apple の心電図アプリケーション」は、照会事項回答書延べ65ページが開示されましたが、SOFTWARE DESIGN SOECIFICATION, Wireframes, Clinical Trial Protocol Appendix, プラットフォーム検証報告書等の内容延べ180ページは非開示でした。

「Apple の不規則な心拍の通知プログラム」は、照会事項回答書延べ69ページ開示が開示されましたが、Wireframes, Software Design Space, Algorithm Development Studies、プラットフォーム検証報告書、プラットホーム検証報告書の主な内容延べ133ページは非開示でした。

次に、審査の内容についてみていきます。「Apple の心電図アプリケーション」では、照会事項(確認事項を含む)等が、延べ6回に渡り約90出されました。各照会事項には、内容や領域が重複しているものもありますが、それらの照会事項等のうち分けは以下のとおりでした(重複しているため合計は10割を超えます)。

添付文書及び情報提供に関するものが約3割、臨床試験に関するものが約2割、アルゴリズム等の性能に関するものが約1割、申請書(名称、形状、構造・原理、選任製造販売業者)に関するものが約3割、その他(類似製品、個人情報保護、サイバーセキュリティ等)が約2割でした。

一方、「Apple の不規則な心拍の通知プログラム」では、延べ7回に渡り、照会事項等が約90出されました。添付文書及び情報提供に関するものが約2割、臨床試験に関するものが約2割、アルゴリズム等の性能に関するものが約1割、申請書(名称、形状、構造・原理、選任製造販売業者)に関するものが約2割、その他(類似製品、個人情報保護、サイバーセキュリティ等)が約4割でした。

以下、臨床試験に関しての照会事項と回答について、具体的事例の一部を示します。臨床試験に関しては、主に製品の臨床的位置づけが争点となりました。なお、これらの製品の承認審査においては、審査の過程で、外部専門家との専門協議が実施されました。

これらのような照会事項と回答のやり取りの結果、申請者からの回答は全て了承され、審査結果として承認して差し支えないとされ、申請から4か月後に厚生労働大臣に承認されました。

以上、今回はモバイルヘルス製品を事例として医療機器の承認審査制度について解説いたしました。承認審査は医療機器の医療機器の性状、品質及び性能について、詳細なチェックが行われますが、具体的な製品の事例をイメージすると理解し易いと思います。

次回は、医療用の医療機器のモバイルヘルス製品の承認審査事例を解説していきます。


[1] 「Apple の心電図アプリケーション」及び「Apple の不規則な心拍の通知プログラム」の外国製造医療機器販売承認申請書、添付資料、承認審査結果は、厚生労働省より開示を受けた行政文書開示決定(厚生労働省発薬生0415第42号)、医療機器承認申請に係る照会事項回答書は、医薬品総合機構より開示を受けた法人文書開示決定(薬機発第0404009)に基づく。

[2] 人工血管基準 、医療用接着剤基準、医療用エックス線装置基準、人工呼吸器警報基準、視力補正用コンタクトレンズ基準 、生物由来原料基準、非視力補正用コンタクトレンズ基準、再製造単回使用医療機器基準

[3] コンタクトレンズ基準、眼内レンズ基準、経皮的冠動脈形成術用カテーテル基準、血液透析器、血液透析濾過器及び血液濾過器基準、中心静脈用カテーテル基準、創傷被覆・保護材基準、加速器システム基準等の43基準

[4] 一般的要求事項(設計、リスクマネジメント、性能及び機能、有効期間・耐用期間、輸送・保管、有効性)、医療機器の設計及び製造要求事項(化学的特性、微生物汚染等の防止、使用環境に対する配慮、測定・診断機能に対する配慮、プログラムを用いた医療機器に対する配慮、機械的危険性に対する配慮、エネルギー・物質を供給する医療機器に対する配慮、一般使用者が使用することを意図した医療機器に対する配慮)、使用者への情報提供、性能評価・臨床試験

[5] JIS T 2304への適合をもって第12条第2項への適合を確認したものとされる。


文責:岡野内 徳弥

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岡野内 徳弥(株式会社CDIメディカル ManagingConsultant

静岡県立大学大学院薬学研究科修了、マサチューセッツ大学ビジネススクール修了。

博士(薬学)、経営学修士。

厚生労働省、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、国立医薬品食品衛生研究所、環境省、法務省、神奈川県を経て、現在に至る。