【CDIメディカルEye】モバイルヘルス製品を事例とした医療機器開発に関わる制度(その1)

1.はじめに

医療機器の開発において、承認審査や保険適用は製品を上市するために必要な制度であり、医療機器製品がどの様な過程を経て医療で用いられているかを知っておくことは、製品開発者はもとより医療に広く関わる者においても、医療機器の医療における役割、製品の特徴などを理解するために有益です。

 一方、近年、情報通信技術の発展に伴い、医療のデジタル化、オンライン化が進展してきていますが、特に医療機器においてはデジタル技術を応用したウェアラブルやアプリケーションなどのモバイルヘルス製品が実用化されてきています。

新規の医療機器(既存の医療機器と性能等が異なるもの)は、承認申請により提出された申請資料を基に医薬品医療機器総合機構(PMDA)による審査、更に必要に応じて薬事食品審議会による審議が行われ、厚生労働大臣による承認がなされます。その後、医療用医療機器は、保険適用申請により、中央社会保険医療協議会の専門部会による審査を経て同協議会に了承されれば保険適用が認められます。

しかし、これらの制度の下で承認を得て保険適用が認められるには、手続において多くの資料(特に製品の性能や使用領域における特別な資料)の作成と審査機関との頻繁なやり取り(照会と回答など)が求められます。製品としての開発が完了しても、これらの壁を乗り越えなくては医療機器として上市できません。そのため、これらの壁がどのようなものになるかを予想し、開発段階から準備や対応を進めていくのが壁を乗り越える有効な手段です。

このコラムでは、医療機器の区分を踏まえて承認審査と保険適用の手続きの制度全般と「治療補助アプリ」と「ヘルスウォッチ」という代表的なモバイルヘルス製品を個別事例としてシリーズで解説していきます。

第1回においては、薬機法における「医療機器」とは何であるか、そしてモバイルヘルス製品の多くが分類される「プログラム」の医療機器とはどのようなものであるかを解説します。基本的なお話から始めますがどうぞお付き合いください。

2. 「医療機器」とは何であるか

「医療機器」とは医薬品医療機器法(以下、「薬機法」)において次のように定義されています。

製品がこの定義に当てはまらなければ、そもそも「医療機器」ではなく「医療機器」とは名乗れませんが、薬機法の規制を受けずに販売できます。

この定義を少し詳しく見ていくと、「人若しくは動物」という使用の対象、「疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること」と「人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすこと」という使用の目的、「機械器具等(再生医療等製品を除く。)」という使用する物が定められています。すなわち、使用する対象・目的・物が決まることで「医療機器」か否かが決まります。

ただし、具体的に「政令で定めるもの」と範囲が限定されています。

では次に、この「政令で定めるもの」を見ていきましょう。その前に「政令」って何かというと内閣で定められた命令(法)です。ちなみに、国会で定められた法は「法律」、その法律を所管する各省庁で定めた法は「省令」と呼びます。順番的には上から「法律」「政令」「省令」となります。横道に逸れましたが、この政令は、次のように表で示されています(表の一部省略)。

ここでは、機械器具が84、医療用品が6、歯科材料が9、衛生用品が4、プログラムが3,プログラムを記録した記録媒体が3、が定められています(動物用医療機器を除く)。

一例を取り上げますと、機械器具として「16.体温計」があります。体温計は機能としては温度計です。しかし、医療機器としての「体温計」は、その使用目的又は効果に、「人の体温を測定し最高温度を表示する」と示すことができます。対象として人、目的として体温測定(測定結果を診断等に使用)、物として機械器具(体温計)ということで、医療機器となります。

なお、医療機器はリスク分類や製造販売規制によっても説明されます。リスク分類には、薬機法2条で示される3つの分類(高度医療機器、管理医療機器、一般医療機器)と通知(法などの解釈通達)で示される4つの分類(リスクⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ)があります。また、製造販売規制には、厚生労働大臣による承認、登録認証機関による認証及び製造販売届出があります。これらの関係は以下の表のとおりです。

医療機器のリスク分類と製造販売規制

3. プログラム医療機器とはどの様なものであるか

ここからプログラム医療機器の話となります。政令には、1.疾病診断用プログラム、2.疾病治療用プログラム、3.疾病予防用プログラムが示されていますが、具体的な内容は、「プログラムの医療機器該当性に関するガイドラインについて」(令和3年3月31日審査管理課長、監視指導・麻薬対策課長通知)で示されています。以下に、この通知の概要を示しています。かなり込み入った内容ですので詳しく見てみます。

「基本的考え方」は、

・医療機器としての目的性を有し、機能しないと生命身体に悪影響を与える

・コンピュータ等に医療機器としての機能を与える又は医療機器と組み合わせて使用する

の2つの要件を満たすプログラムを医療機器プログラムとしています。

なお、従来(平成26年まで)はプログラム単独では医療機器とせず、プログラムをハード(機器)に組込んで医療機器としていました。例えば、X線診断画像装置ワークステーションに使用されるプログラムは、X線診断画像装置ワークステーションとして医療機器としていましたが、現在はX線診断画像装置ワークステーション用プログラムとして医療機器となっています。

「除外基準」として、4つ挙げられています。①②の患者説明、院内業務支援・メインテナンスの目的は、疾病の診断、治療、予防に直接寄与しないこと、③は使用者が医療従事者ではないことが除外理由となっています。一方、④は低リスク(クラスⅠに相当)のものまで規制しなくてよいから除外しています。

「該当性判断」は、プログラムの使用目的とリスクから医療機器に該当するかで判断し、その判断材料は製品表示、説明資料、広告などです。

「考慮要素」は該当性の判断の際に考慮する事項ですが、疾病の治療・診断等への結果の寄与度、故障時のリスクの蓋然性、対象患者、治療の代替性、助言機能、独自のアルゴリズムが挙げられています。

以上のことから、プログラムを使用した結果が生じさせるリスク及び治療・診断等への影響という2つの視点に加えて、対象者、機能、独自のアルゴリズムであるか等を基として、医療機器プログラムであるか否かを判断していると言えます。

4. プログラム医療機器を具体的に理解しよう

このように、プログラム医療機器であるか否かの判断はかなり複雑ですが、具体的な事例でポイントを説明します。

次の表は厚生労働省が公開している「厚生労働省医療機器プログラムデータベース」から、10例を抜粋したものです。比較的類似している機能のプログラムを2つずつ比較しながら見ていきます。


「厚生労働省医療機器プログラムデータベース」(厚生労働省HP)より著者が抜粋、編集

1は「バイタルサインモニタングプログラム」、2は「健康管理プログラム」です。2つとも身体の兆候を測定しているのですが、1は患者状態のモニタリングが目的であるのに対して、2は疾病の経過観察、治療、診断に用いる旨を標榜しないとしています。1は治療・診断等への影響が大きく医療機器に該当し、2は該当しないとしています。

3は「リハビリテーション支援プログラム」、4も「リハビリテーション支援プログラム」です。2つともリハビリテーション支援目的ですが、3は取得した生体情報を独自のアルゴリズムで解析して評価するのに対して、4は疾患に関する一般的な範囲で情報提供、実践記録するまでの機能です。3の独自のアルゴリズムが考慮されて医療機器に該当し、4は該当しないとしています。

5は「抗酸菌種同定プログラム」、6は「病理診断関連情報提供プログラム」です。2つとも医療従事者の情報を提供して業務支援をする目的がありますが、5は独自のアルゴリズムで非結核性抗酸菌を推定し治療薬選択を補助するのに対して、6は病理診断に関する一般的な情報を提供するにとどまります。どちらも医療従事者が使用するものですが、5は治療・診断等への影響が大きく、また独自のアルゴリズムが使われていることから、5は医療機器に該当し、6は該当しないとしています。

7は「糖尿病運動療法プログラム」、8は「運動支援アプリ」です。2つとも運動を支援する目的はありますが、7は糖尿病患者のHbA1cを低下させることを目的として行動変容を伴うプログラムであるに対して、8は公知のアルゴリズムで一般的な情報を提供するにとどまるものです。7は治療・診断等への影響が大きく医療機器に該当し、2は公知のアルゴリズムを使用していることもあり該当しないとなしています。

9は「ウェアラブル製品」、10は「顔色解析プログラム」です。9は心電図や血圧を計測し、疾病の有無を判断するのに対して、10は顔の表情を独自のアルゴリズムでスコア化して評価しますが疾病とは関係がない評価です。疾病に関わるか、関わらないかの違いから、9は医療機器に該当し、10は該当しないとしています。

 このようにプログラム医療機器に該当するかは、製品の目的、機能、対象者のみならず、使用による効果なども影響しています。

以上、今回は医療機器とは、プログラム医療機器とはについて解説いたしました。モバイルヘルス製品の開発にあたり、薬機法上の「医療機器」とするか一般製品とするかで薬事承認や許可の有無のみならず、保険適用の対象、市販後の安全対策、販売における監視指導など大きく変わってきます。そのため、そのどちらで開発するかは、開発のスタートラインでしっかり検討しておく課題です。

次回は、モバイルヘルス製品を事例として薬事承認制度について解説していきます。

文責:岡野内 徳弥

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岡野内 徳弥(株式会社CDIメディカル ManagingConsultant

静岡県立大学大学院薬学研究科修了、桐蔭横浜大学法科大学院修了、マサチューセッツ大学ローウェル校ビジネススクール修了。博士(薬学)、法務博士、MBA(経営管理学修士)

厚生労働省、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、国立医薬品食品衛生研究所、環境省、法務省、神奈川県を経て、現在に至る。