はじめに:これからの時代に求められる海外拠点の役割とは
日本企業にとって海外拠点は、長らく「市場としての海外」「製造拠点としての海外」という文脈で語られてきました。現地市場の開拓やコスト競争力の確保を目的とし、販売・生産機能を中心に海外展開を進めてきた企業は少なくありません。
一方で近年、こうした従来型の海外拠点の捉え方だけでは、十分な競争力を確保できなくなりつつあります。
その中で注目されているのが、「知の拠点としての海外」という考え方です。
本記事では、海外拠点における研究開発・企画機能の進化を軸に、なぜ今「知の拠点としての海外」が重要なのか、そしてそれを機能させるために日本本社・海外現地法人それぞれに何が求められるのかを深堀りしていきたいと思います。
これまで主流だった海外拠点の捉え方と限界
これまで多くの日本企業において、海外拠点は以下のように位置づけられてきました。
- 市場としての海外:現地顧客に向けた販売・マーケティング拠点
- 製造拠点としての海外:コスト競争力を目的とした生産拠点
これらはいずれも重要な役割であり、今後も必要であることに変わりはありません。一方で近年、日本では得られない知見/技術を海外で吸収し、それをグローバル市場で活かそうと、研究開発機能を海外現地に据え・強化する「知の拠点としての海外」という見方が注目を集めています。
「知の拠点としての海外」とは何か
一般的に、研究開発拠点は、大きく以下のように整理できます。
- 生産支援拠点(現地調達・生産支援)
- 現地開発拠点(現地市場向けの製品開発)
- グローバル開発拠点(グローバル向けの製品・技術開発)
- 知識獲得拠点(研究にR&D拠点と銘打たないリサーチ機能を含む)
- 研究と開発の両方を担う複合型拠点
本記事で扱う「知の拠点としての海外」とは、いわゆるR&Dに特化した拠点のみならず、補助的な役割としてリサーチ機能を有する海外事業拠点も含む概念です。
マクロトレンドから見る「知の拠点としての海外」
マクロで見ても、日系企業の海外における研究開発投資は、金額・比率ともに緩やかながら増加傾向にあります。
特に、中国やその他アジア地域では、法人数・研究開発費ともに長期的な増加が確認されています。
これは、従来のような現地向けの商品企画・開発という目的のみならず、日本よりも進んだ先進事例・知識獲得という目的が背景にあると考えられます。
先行事例に見る「知の拠点化」
実際に、「知の拠点としての海外」を志向する象徴的な事例も現れています。
例えばイオンは、中国にデジタル関連の新会社を設立し、中国で開発したデジタルシステムを日本やASEANへ展開することを視野に入れています。
また、トヨタは、中国市場における競争力強化を目的に、知能化・電動化分野の研究開発機能を中国に集約しました。中国で得られた開発成果や学びを、中国市場にとどまらずグローバルに還元することを明確に打ち出しています。
これらの事例に共通するのは、「現地向け対応」にとどまらず、「知の獲得とグローバル横展開」を明確に意識している点です。
なぜ「知の拠点としての海外」は機能しづらいのか
一方で、多くの企業が「知の拠点化」に課題を抱えているのも事実です。その背景には、日本本社側・海外現地法人側双方のすれ違いがあります。
日本本社側では、
- 現地の事情が分からない/臨場感がない
- 現地への指示/ミッションが曖昧
- ヒト・カネの支援が不十分
といった課題が散見されます。
一方、現地法人側でも、
- 本社側のニーズを知らない
- リサーチの目的意識を持っていない
- 本社への働きかけ/提案が不十分
といった悩みが生じがちです。
結果として、「海外拠点から定期レポートは出ているが、次のアクションにつながらない」という状況に陥ってしまいます。
「知の拠点」を機能させるための要諦:本社と現地の歩み寄り
知の拠点として海外を機能させるための要諦は、日本本社起点と現地拠点起点の両輪にあります。
日本本社側には、コーポレート/事業部門それぞれの戦略に基づき、その達成のために必要なミッションを現地に提示することが求められます。
同時に、現地拠点側には、日本本社(の特定部門)の課題意識に沿って、現地でしか得られない情報/見えない事業チャンスを提案する、といった動きが欠かせません。
事例に学ぶ:「知の拠点」化に取り組んでいる企業
実際に、上述の要諦を踏まえながら、海外拠点の「知の拠点」化に取り組んでいる事例を見てみましょう。
中国に拠点を置く日系システムインテグレータでは、現地拠点の創設当初から本社からの明確なミッション提示があった上で、次第に現地側からも日本本社の特定部署への継続的なアプローチを主体的に仕掛けていくことで、短期・長期双方の研究テーマを切り分けながら、機能強化を進めてきました。
近年では、中国で得た知見をグローバル市場に横展開する計画の途上ではあるものの、創設時~移行期に日本本社・現地法人の双方の歩み寄りがあったがゆえに、海外拠点が「知の拠点」として機能し始めた好例といえます。
また、インドネシアの日系消費財メーカーでは、創設時こそ日本本社からのミッションが曖昧であったがゆえにスムーズな立ち上がりができなかったものの、その後現地新社長の強いリーダーシップにより、日本本社と現地拠点の意思疎通が改善。現在は、日本本社主導による属人性に依存しない仕組み化へとフェーズが移行しています。

いずれの事例も、日本本社・現地法人の双方が主体的に働きかけを行ったことが、「知の拠点としての海外」を軌道に乗せるに至った好例といえます。
知の拠点機能強化に向けて (1):日本本社に求められる取り組み
上述の事例から抽出できる、「まず、何をすべきか」に関するポイントを、まとめてみようと思います。
海外拠点を「知の拠点」として機能させるうえで、まず重要となるのが日本本社側の関与の仕方です。
多くの企業では、「現地で何か良い情報があれば上げてほしい」という抽象的な期待にとどまりがちですが、それでは価値あるアウトプットにはつながりません。
日本本社側に求められるポイントは、大きく3つに整理できます。
① 現地拠点へのミッションの明確化
まず、「現地の情報を使って、何を意思決定したいのか」を明確にする必要があります。
単なる情報収集ではなく、
- どの事業・戦略に関わる情報なのか
- どのレベルの示唆まで求めているのか
を具体化しなければ、現地側も
「どの情報を、どの深さで、どれだけのリソースをかけて集めるべきか」
判断できません。
② 日本本社側の受け皿(スポンサー)の用意
現地から上がってくる情報を誰が受け取り、どう使うのかを明確にすることも不可欠です。
情報の受け皿となるコーポレート部門や事業部が曖昧なままでは、
- 情報が活用されない
- 次のアクションにつながらない
- 現地のモチベーションが低下する
といった悪循環に陥りやすくなります。
③ 属人化しない「仕組み」としての設計
海外拠点のリサーチ機能を、特定の個人の能力や経験に依存させるのではなく、
- ミッション
- 組織体制
- 人材育成
- 評価制度
といった観点で、日本本社主導で再現性のある仕組みとして設計することが重要です。
知の拠点機能強化に向けて (2):現地法人に求められる取り組み
一方で、「知の拠点化」は日本本社だけの取り組みでは成立しません。
海外現地法人側にも、主体的な役割が求められます。
① 日本本社側の受け皿(スポンサー)の探索
現地拠点は、自ら
- 自社内のどの部門が
- どのような課題意識を持っているのか
を理解し、情報の活用先を特定する努力が必要です。
本社の中期戦略を理解したうえで、
「この情報は、この部門の意思決定に使える」
という形まで落とし込めて初めて、リサーチは価値を持ちます。
② 日本本社側の「教育」と巻き込み
定期的なレポート提出だけでは、本社側の理解や関心は深まりません。
- 膝詰めでの議論
- 現地訪問の機会づくり
- 双方向の対話
を通じて、本社側の現地解像度を高める働きかけが重要になります。
③ 現地情報を踏まえた提案
現地拠点は、単なる情報提供者ではなく、
- この情報を踏まえると、どんな打ち手が考えられるのか
- 追加で必要なリソースは何か
といった提案まで踏み込む存在であることが求められます。
日本本社だけの視点では見えない選択肢を提示できることこそが、
現地拠点が「知の拠点」として価値を発揮するポイントです。
おわりに:自社にとっての「知の拠点」をどう描くか
海外拠点を「知の拠点」として機能させるためには、
日本本社・海外現地法人のどちらか一方の努力だけでは不十分です。
- 明確なミッションを設計する日本本社
- 主体的に提案を行う海外現地法人
この両者の歩み寄りによって初めて、
海外拠点は企業全体の競争力を高める存在へと進化します。
これまで述べてきたように、「知の拠点」化に向けて一定の型は存在するものの、一方で、実際にどう実現させていくのかは、個社事情によって様々な選択肢があることもまた事実です。 弊社では、海外研究開発・企画機能の設計や機能強化に関するご相談・個別面談を承っています。
文責:外山一成

外山一成(株式会社コーポレイトディレクション Manager/Asia Business Unit メンバー)
東京外国語大学外国語学部中国語学科卒。
経営コンサルタントとして、日本企業の中国進出・中国企業の日本進出など、日中企業の支援実績を有する。特にヘルスケア・食品関連のプロジェクト実績が豊富。










