【CDIメディカルEye 】東京オリンピックと新型コロナ

東京オリンピックがはじまりました

東京オリンピックがはじまりました。コロナ禍の中でその開催の是非が直前まで問われていましたが(今からでも中止すべきという方もいるようです)、連日の選手の活躍は本当に素晴らしいと思ってテレビ観戦をしています。ちなみに私はチケットが当たっていたという、全くもって私的な理由でぜひとも有観客で開催をして欲しいと切に願っておりました。なので今回のコラムはその恨み節を書こうかと思っていましたが・・・ここへきて国内の新型コロナウイルス感染は急速に拡大していまして、7/28には全国・東京ともに過去最高を記録しました。

チケットを持っていたから、という理由だけではなく「有観客で何故できないの?」と私が思っていたのは、他のスポーツイベントがかなり有観客で実施されていたからでもありまして、特にテニスのウインブルドン選手権で観客がマスクをせずに応援している姿は衝撃的で、あれがいいのに何でオリンピックは大会そのものを中止しろって言ってるのかな?と思わずにはいられませんでした。(※ウインブルドン選手権では、観客は入場時に簡易検査の陰性証明や2週間前までにワクチン接種を2回受けた証明などが求められたようです)

オリンピックの開催是非、あるいは今の感染拡大の状況に関しては、いろいろな人が主張やコメントをしていると思いますが、いわゆる医療関係の有識者と呼べる方々の中でもその見解は分かれているように思います。私のような素人はどんな情報を信じたらよいのか、なかなか難しいですよね。

例えばですが、BuzzFeedNewsで定期的にインタビューを受けておられる西浦博氏は今からでもオリンピックを中止すべきと主張している代表例の1人かなと思います。①世界的にも感染者数が拡大している、②その要因の1つは感染力の高いデルタ株で歯止めがかかっていない、③外出禁止の法制化などより強い措置が必要、④感染を拡大させるオリンピックは中止を、といった主張をされています。一方で、PRESIDENT Onlineで連載をされている大和田潔氏はオリンピックは有観客でやるべきと主張しています。①日本はそもそもコロナの流行が小規模、②重症化する高齢者へのワクチン接種はほぼ完了した、③今後は若年層の軽症または無症状への対応がメインに、④オリンピックは有観客で、という主張をされています。これ、どちらが正解なんでしょう?

ご参考:BuzzFeedにおける関連記事

ご参考:PRESIDENT Onlineにおける関連記事

コンサルなのでデータで何かいえないかしら・・・

1. 感染者数 ⇒確かに急拡大。デルタ株の影響は大きそうです

冒頭のとおり、国内では感染者数は急速に拡大しており、7/28の数値は全国で9,582人、東京で3,177人と、1日の新規感染者数は過去最高を記録しています。デルタ株が7月中旬時に東京で約50%(国立感染症研究所が推計)で、これが月末には80%に達する見込みということのようです。どうやら昨年よりも大幅に人出が増加した4連休の影響もこれから出てくることを考えると「まだ増えそう」ということが言えそうで、日本はこれまでに経験していない感染者数に対峙することにはなりそうです。

ちなみに、日本のことを”さざ波”と表現している人にはこんなデータも頭にあると思います・・・

(各国の1日平均の感染者数 7/28時点)

米国:61,354人 > 英国:29,703人 > フランス:20,349人 > 日本:5,117人 > ドイツ:1,838人 > 韓国:1,595人

2. 入院患者数・重傷者数・死亡者数 ⇒医療は逼迫しそうなの?

次に、感染拡大によってどのくらい深刻な事態になっていそうか、医療は逼迫しそうか、ということですが、数字が多いのでかんたんな表にしてみました(表1)。数値でいうと入院患者数は第3波と第4波の間くらいまで増えています。ベッド使用率は38%なのでまだ大慌てする状況ではないように思えます。

重症患者数は東京基準で見るか、国基準で見るか、ですごくイメージが変わりそうです。東京基準では第4波と同程度まで増加していますが、まだ明らかな急拡大の傾向はみられませんし、重症患者対応のベッド使用率は20%です。これが国基準だとすでに第3波以上の重症患者がいて、ベッド使用率も53%になるので何か手を打たないとよくない気がしてきます。また、感染者数のピークから入院患者数や重症患者数がピークになるまでにタイムラグがある点も要注意です。今回の感染拡大のピークが今(7/29)だとしてもその影響が分かるのはおそらくオリンピックが閉会する頃になると思いますが、東京基準で見ると今すぐに医療が崩壊しそうというのはちょっとまだ早いのかも、と思います。(※重症患者の定義:東京基準=人工呼吸器またはECMOの使用者 国基準=人工呼吸器、ECMOの使用者、およびICU入室者)

また、1つデータから確からしく言えそうなこととして「死亡者数が増加してこないかもしれない」というのがあります。死亡者数も感染者数からは遅れて推移しますのでまだ断定的とはいきませんが、死亡者数は第4波以降は明確な減少を示していて、いま時点でも増加傾向に転じているようには見えません。このことはコロナ禍全体の状況をどう捉えるべきか、ということの変化として重要だと思います。

ご参考:NHK特設サイト 新型コロナウイルス(国内感染者数、死亡者数の推移)

3. ワクチンの接種 ⇒まだまだだけど最重要ミッションは達成?

国内のワクチン累積接種回数は8,000万回を超えました。接種2回を完了した人が3,342万人(総人口の26.3%)、少なくとも1回接種をした人では37.4%です。この数字は、「接種3,000万人はもう英国と同じくらいの人が接種完了しているということですよ!」とも、「接種率26.3%はまだまだ英国の半分に満たないんですよ!」とも表現することができます。データの見方(見せ方)の話ですが、元は同じ情報なのに全然違う印象になるので要注意ですね。ここでは実際に日本にはたくさん人がいるわけですから、全体としては「まだまだ」と見るのが妥当なような気がします。この辺りが”正常化”を決断した英国ほどはまだ思い切ってはいけないところだと思います。

一方、65歳以上では、2回完了した人がちょうど70.0%、少なくとも1回接種の人は85.0%となっています。これは「かなり」接種が進んだとみてよいのだろうと思いますし、現在の死亡者数の状況には大きく影響をしているだろうと思われます。新規感染者における65歳以上の割合は6月以降大きく減少していて(7/7時点で4.9%)、これまでの年齢別の死亡者は実に全体の96%が60代以上の高齢者に限られていますので、今の感染拡大は死亡者数の増加にはつながらないかもしれません。40代50代の感染者が増えている、のは高齢者が減っているのでそれは比較したらそうなりますよね。

ご参考:東京都の感染者数に占める高齢者の割合と高齢者接種率 首相官邸

ご参考:新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(速報値) 厚生労働省

で、結局どうなの?ということですが・・・

いろいろな見方があるんですよ、どうなるかはまだ分かりませんよ、といっておしまいにしたいところですが、それではあんまり意味がない、ということで・・・日本は次の局面に来たのだな、というのが私の印象です。どうやらそろそろ新型コロナは”死ぬ病気”ではなくなりつつあるようだ、というのがデータから見た全体の状況ではないかと思います。もちろん、今現在苦しんでいる方もいらっしゃいますし、死亡症例もゼロではありません。対応は慎重に、特に重症患者数の推移などを注視しつつということではありますが、今は大騒ぎして全体の外出制限を強制化する、といったことを考えるよりも、例えば何度かいわれてきた、インフルエンザ相当の五類への分類変更をして、医療が対応しやすいようにする、といった対処をすすめた方がより現実的な局面にきているのではないかと思います。

少なくとも、無観客、パブリックビューイングなし、スポーツバーで飲みながら観戦もなし、というやり方をしているのに、感染者が増えたからって「人命より五輪を優先するのか」といわんばかりにオリンピックを中止しても何にも状況は変わらないだろうと思います。がんばれニッポン!

文責:伊藤 愛

伊藤 愛(株式会社CDIメディカル コンサルタント)

大阪大学大学院薬学研究科修士課程修了(薬剤師)。京都大学大学院医学研究科修士課程修了。

商社、独立系ベンチャーキャピタル、ヘルスケア・バイオベンチャー企業、経営コンサルティングファーム等を経て現職。ライフサイエンス・ヘルスケア分野を中心に、中期経営戦略等、新規事業戦略、海外展開、オープン・イノベーション戦略等、戦略立案から実行支援を含むコンサルティングを実施。