【CDIメディカルEye 】AI(人工知能)と医療画像解析

エルピクセル社のニュース

もう先月のことになりますが、AI医療画像解析ベンチャーの有力企業である、エルピクセル株式会社の元取締役が業務上横領の容疑で逮捕されました。被害額は、同社が2018年に資金調達した30億円のほとんどにあたる額とされていて、かなり衝撃的です。

もちろん逮捕のニュースには驚きましたが、日本の医療系ベンチャー企業が1回の資金調達で何十億円も集められる時代になったのだな、という点も衝撃的ですし、同社は2019年に医用画像解析ソフトウェア 「EIRL aneurysm」で医療機器承認を取得していて、これだけ資金を横領されているのにも関わらずAIの技術開発にはしっかりと成功しているところも、改めて驚きであったりします。やはりしっかりと実力がある、ということなのだと思います。

AIによる医療画像解析の現在地

さて、そんなエルピクセルが取り組んでいる、AIによる医療画像について、今回は書こうと思います。いわゆる日進月歩の世界ですので、書いている今、もう内容が古臭くなっているのではないかと心配ですが…

ここ何年かの間に、私もいくつかAIをテーマとしたお話に関わりました。AIは注目の技術でもありますし、医療画像とAI技術の組み合わせは相性がよいと考えられていますので、研究開発は日本でも盛んに行われています。画像をみて、例えば”がんの疑いがあるかないか”といった、特定の判定を行うレベルであれば、どうやらかなり正確に判定を出すことができるようになっていると感じます。極端にいうと、もはや判定できるかどうか、という点は競争軸になっていない、という方もいるほどです。※

では、AIが自動で診断をする世の中になるの?というと、話はそれほど単純ではありません。あくまで現時点ではありますが、厚生労働省では、「AIは診療プロセスの中で診断仮説形成支援や治療戦略立案支援などの効率を上げて情報を提示する支援ツールにすぎず、判断の主体は医師である(保健医療分野AI開発加速コンソーシアム 2019年1月)」としています。つまりAIを使って判定をしても、医師は医師で画像をみて診断を行わなければなりません。日本の医師の方は優秀で診断速度もはやいですので、AIの判定機能が“サポート”にとどまる場合、どこまで臨床で役に立てるか少々疑問です。また、画像の判定という、医師のやることと同じことをする機能に医療機器として新たな保険点数が付くか、というと、それもまた微妙な問題になりそうです…

AI x 医療画像解析の今後

AIの技術開発という点ではどうでしょうか。個人的には開発の方向性としては2つあるように思っています。1つは『医師のオペレーションサポートに特化する』というもの。実際の医師の作業を要素分解して、作業負荷を下げる、または医師が処理できる量を増やす、ための機能に注力する方向性です。もう1つは『AIにしかできない機能を創り出す』というもの。例えば画像以外のインプットを組み合わせて、”予後予測”や”最適治療”を導き出す、といった機能によって“よりよい医療”を目指す方向性です。どちらも魅力的なアプローチだと思いますし、学習データの量だけで勝負が決まるわけでもない、日本の技術力が活きるものではないかな、と思いますが皆さんいかが思われますか?

AI技術は、ライフサイエンス分野のコンサルティングでは依然注目テーマの1つです。また次回以降の機会に続きを書きたいと思います。また、アップデートも重要ですので、情報交換などして頂ける方はぜひお願いいたします。

※ このコラムでは、個別の正確度、感度、特異度、精度…等の定義に基づいた議論をしているわけではありません。

文責:伊藤 愛

伊藤 愛(株式会社CDIメディカル コンサルタント)

大阪大学大学院薬学研究科修士課程修了(薬剤師)。京都大学大学院医学研究科修士課程修了。

商社、独立系ベンチャーキャピタル、ヘルスケア・バイオベンチャー企業、経営コンサルティングファーム等を経て現職。ライフサイエンス・ヘルスケア分野を中心に、中期経営戦略等、新規事業戦略、海外展開、オープン・イノベーション戦略等、戦略立案から実行支援を含むコンサルティングを実施。